1段目 学園の階段の始まり。
東京都平橋区新東町にある
東武鉄道上東線、上平橋駅から徒歩10分。
中高大学一貫校、緑豊かな北城公園などが隣接する学校。
全寮制を採用している私立北城学園。
教室の窓から見える光景にはその学園が広がっている。
呼野匠、北城学園1年。
両親の仕事の関係で、俺は全寮制であるこの学園の入試を受け
今から2か月前、入学を果たした。
「どうしたんだ、匠。可愛い子でも居たか?」
こう話しかけてきたのは四康太。
同じクラスの生徒で、入学初日から出席番号の1番と3番。
2番が女子で、男子と女子が縦に同じ列を形成しているので
康太が教室の一番左前の席で、俺がその後ろ。
そういった縁で仲良くなった友達だ。
「いや、悪いが俺にはそういう趣味は無い。」
「またまたぁ……、ここは北城だぜ!?
選り取り見取りじゃね?って痛っ!!
てめぇ……渚!何すんだよ!!」
その康太の頭を小突いたのが一尺八寸渚。
康太とは幼稚園から同じ学校、クラスで
少々肌を焼いているのか、肌が小麦色で
いかにも今時の女学生、と言ったところだろうか。
しかも雑誌の読者モデルまでしているって話だが
こう見えて中等部の総合成績1位の才女だ。
「何?また康太が何かやらかしたの?」
そしてこちらの女性は猪村南海。
渚とは見た目が対照的で白い肌で
同じ読者モデルの仕事をしているそうだ。
中等部の頃は名門校でもある弓道部に居たそうだが
何でも3年に目をつけられ、嫌がらせを受け続けた事で
現在は所属だけはしているらしいが幽霊部員と化しているとか。
渚と同じ才女で中東部の総合成績2位と
平々凡々、中の中と言って良い俺からすれば
うらやましい限りだ。
「やらかしたってなんだよ!?
俺はこう、ボンッキュボンっとした女性をだな!
って痛ぇよ!ちったぁ手加減の1つもしたらどうなんだよ!!」
ちなみに渚曰く、康太は幼稚園の頃に渚にプロポーズしたらしい。
それでいて、それを康太はすっかり忘れて
こう女と見れば、こう尻を追いかけるような性格に
渚と康太のやり取りは最早、夫婦漫談か何かに見えてきた。
だがこう見えても康太は俺より頭が良い。
中の上という所で、最初のテストでも
俺は康太に勝った科目と言えば、国語と数学くらいだろう。
入学してから、大抵この4人が集まるのがいつもの光景だ。
「つかさぁ……次体育なんだけど?
あんまりダべってると、遅れるよ?」
「そうそう。」
「あっ、そういやそうだ!匠、さっさといくぞ!!」
渚たちに言われるまで俺も忘れていた。
すぐに男子更衣室に行き、体育着に着替え
男子は体育館だった筈なので、急いで向かっている時だった。
俺はありえないものを見た。
「おい、どうした匠!早くしねぇと怒られるぞ!?」
「いや、康太。あれを見てみろ……。」
「あれ、って……ただの階段じゃね?」
どうやら康太にも「あの」階段が見えているようだ。
「康太、この建物はA棟だぞ?」
「知ってるぜ?それがどうしたんだ?」
「A棟には地下は無いんだぞ?」
他の棟には地下があったりもする。
主に学食や購買があったり、倉庫があったりもする。
だが、A棟には「地下1階」は存在しない。
しかも階段は踊り場が見えて、折り返して
地下1階が無ければ、このような階段がある筈がない。
と、言うよりここには何も無かった筈だ。
入学から1か月、流石にどこがどこなのか位は
俺も覚えている。
「うーん……そうだったか?」
康太は勉強は出来るが、こういう所の
記憶力はあまり良くないのは僅か1か月で知っている。
少々チャラい外見だが、勉強が出来る原因は渚だ。
渚とは家が隣同士で、幼い頃から渚が康太の
勉強を見続けた結果、だと
渚が胸を強調させて自慢していたのを覚えている。
「このA棟に地下1階は存在しない。
なのに俺の眼の錯覚かと思えば、康太も見えている。
可笑しすぎないか?」
「うーん………ここの所温暖化なのか
春って言っても気温高ぇしな。
先日も真夏日を記録したばっかりで俺ら頭が茹ってるのかもなw」
「まぁ康太ならそれもあるだろうが、気になる事があってな。」
「何だよ、俺ならありえるって!?」
「最近の新聞読んでるだろ?
この辺りで建物が原因不明で崩れたとか
人が行方不明になっているとか……今年に入ってからさ……。」
「ああ、そういやあったな。
俺の中では、日ハムのビッグボスの話題の方が
目に入りまくってたけどな。」
「そう言いながら、全部速読してるだろ?」
「まぁな。で、それとこの階段が何の関係があるんだ?」
「まぁ信憑性は解らないんだけどさ。
東スポ情報だったから……この新東町を中心に
平橋区から馬練区の方まで同じような事が
これまで数十件起きている、とか読んだんだよな。」
「東スポって、東上スポーツかよ……。
誤報、ガセネタ、飛ばし記事の何でもござれ。
飛ばしの東スポとか、滅茶滅茶信憑性ねぇじゃんw」
「でもそのどれもが未解決のままもう5ヶ月なんだ。
この階段も、よく考えれば不思議だよな。
本来無い筈の階段なんだぜ?」
「つまーり、匠はこの下を見に行きたいと。
そこで怖いから俺についてきてくれってか?」
「いや、康太にその辺りのアテはしてない。
確か万年帰宅部だろ?」
「そういう中学までは囲碁将棋部だった筈の匠が
アテになると?」
「まぁ、どちらも間違いだな。
だが、この不思議な階段。気にならないか?
俺はこれまでここは何もない場所だったと記憶してるんだ。」
「はっはっは、お前勉強は俺に勝てないけど
記憶力は意外と良いからな。
匠がそういうならそうなんだろうな………。」
そう康太と話していると、康太の顔は険しくなっていた。
「マジでいくつもりか?」
「万年帰宅部と元囲碁将棋部。
どちらか1人よりは2人の方が、ダメージが少ないとは思わないか?」
「ダメージ?」
「体育の授業をサボった罰の。」
そういうと康太は笑い飛ばし、俺の肩に手を回した。
「じゃあ行きますか!むしろチャチャッと降りてみてみて
さっさと体育館に行きゃ間に合うだろ。
そう思えば善は急げってね。」
「だから康太は国語で俺に負けるんだよ……。
精々思い立ったら吉日だろ?
善は急げは良い事は躊躇うな、って事だからな?」
「なら鬼が出るか邪が出るか?」
「それは合ってる、行く先にはどんな運命が待ち構えているのか
予測できないって意味だからな。」
俺と康太は肩を組み、一気に階段を駆け下りた。
そして最後の一段を降りた、と思った瞬間には
目の前の景色が大きく変わったのだった。
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