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7 治し方? わかんね

 俺に殴られ頬を押さえた升人がぶつくさと文句を言いながら椅子に座り直し仕切り直しだ。

 俺はイラつき冷たい目で升人を睨みつける。


「……で、詩織を元に戻すにはどうすればいいんだ?」


 そんな俺に升人は口を尖らせながら椅子にもたれかかり不満そうな表情で足をプラプラさせやがった。

 子ども医者かよ……! クソが


「いったいなあ〜〜 もう〜 乱暴な奴には教えてやんない!

 ……ヒイッ! わかった! わかったって‼︎

 山川くんも撃ってくるな!」


 俺が再び殴り掛かろうとすると山川看護婦の銃弾が升人の額を捉えた。

 痛みに顔を顰める升人を俺は更に冷たい目で睨んだ。


「……さっさと治し方を教えろ」


 升人はまるで教師に叱られた子どものように不満そうに口を尖らせ、山川看護婦が用意したノートの余白に何やらイラストを描き説明を始めた。


「あーはいはい! 説明するから怒らないで聞いてよね! 

 ……まずさあ、人間の脳ってのは未知の領域なのね。ブラックボックスの中で何が起こってるかなんて専門医でも本当に詳しいことは現在の医療では分からない。

 脳がかかりうる多くの症状に対し分かっているのは対症療法だけさ。

 まず僕は二ノ宮詩織くんの眠り続ける脳に楽しかった頃の記憶という刺激を与え目覚めさせた。これが第一段階」


 うん、まあここまではわかる。

 升人にしてはまともな説明じゃないか


 感心した俺の心情を知ってか知らずか升人は淡々と説明を続ける。


「これは僕の仮説として聞いて欲しい。

 話を聞いた状況でしかわからないけれど今の彼女は起きながらにして夢を見ている状態。繰り返すが自分のことをフリキュアや改造人間だと思い込んでるわけだね。だからまるで子どものような万能感たっぷりの危険なアクロバティックアクションもやってのけたんだね」


 俺は教室での詩織の様子を思い返す。

 高いところから飛び降りてヒーローごっこ。

 まるで何をやっても怪我をしないと思い込んでいる無茶な動きだった。

 確かに小学校低学年がたまにやるアレだと思う。


「幼児退行みたいなもんだな」


「うん、そう捉えてもらって構わないよ。

 目覚めたのはいいが確かに今のままだと学園生活を送るには支障があるよね」


 このままあの状態で学園生活を送るとなると頭が痛くなる。

 俺は升人の細い目へと視線を戻した。


「どうすれば詩織は元に戻るんだ?

 日が経てば元に戻るのか?」


 すると升人は細い目を更に細めるようにして俺の方を見つめ返した。


「さっきも言ったようにはっきりしたことはわからない。時間をおけば元の二ノ宮くんに戻るかも知れないし、ずっとこのままかもしれない。……だがあえて言わせてもらうなら彼女を今の状態に追い込んだのは周りの人間であり、特に君だ」


「……なんだって」


 俺は唖然として升人の顔を見つめ返した。

 相変わらずのっぺりとした顔に苛立ちながらも俺は二の句が告げない。

 升人は更に俺に指を指して説明を続ける。


「もう一度言ってやる。今日実際に君に会ってみて確信したよ。二ノ宮詩織くんにストレスを与え今の状態に追い込んだのは君だ。彼女の治療に当たって二ノ宮くんのご両親と君のご両親のお話を聞いたよ。

 君彼女に対してかなり過保護らしいね。

 勉強の面倒をみては常に全国模試の1位と2位。

 彼女を妬む女子は完全にシャットアウトし、言いよる男子は裏で排除する。

 おかげで君たちに友人といえる交友関係は皆無。

 周りの環境が悪いのかもしれないけどね、異常な状況かと思わないかね」


 気づくと俺は唇を震わせながら頭を抱えていた。

 ……俺が他ならぬ詩織かみのストレスの原因だっただと?


「……俺が 俺が詩織かみに負担をかけているというのか……⁉︎」


 項垂れる俺に升人は細い目を細めて笑顔でポンポンと肩を叩いてきた。


「まあ、先ほど言った通り脳ってのはブラックボックス。僕の戯言だと受け流してもらっても構わないけどね。彼女が今の生活にストレスを感じていたのは事実だ。

 元に戻すことを考えるより暫く今の彼女に付き合ってやるのもいいんじゃないかな」


「……なあ升人先生」


 俺は肩を震わせると顔を上げ升人に右ストレートをお見舞いした。


「それって責任転嫁だよなぁ⁉︎ 元々はお前の怪しげな治療のミスだよなぁ⁉︎ うまく言いくるめたつもりかァァ⁉︎」


 升人のボケは床を転がりながら俺をにらんできた。


「ぷげぇぇぇ⁉︎ クッソ! 治し方? 僕にもわかんねえよぉぉぉぉぉ‼︎ 納得して大人しくかえれよぉぉぉ‼︎ このクソ野蛮人めぇぇぇ!」


 このクソヤブ医者め……!

 俺は肩を震わせながら山川看護婦に抑えられ自分の怒りを抑えるのに精一杯だった。

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