4 狂科学者・升人和男
目を覚ますと俺は保健室にいた。
戸惑う保険医への挨拶もそこそこに俺はさっそく早退する。
保険医の話によると今朝目覚めた詩織は病院を抜け出し先ほどのように登校してきたそうだ。
詩織が復活したのはもちろん僥倖であるのだが、あの後教師たちの手により様子のおかしい詩織は保護され迎えにきた両親の手により帰宅して今は家にいるというのだ。
詩織に会うために、そして詳しい事情を聞くために俺は最速の電車に乗りすぐさま帰宅し詩織宅に赴いた。
……詩織が復活した
俺の心は逸り、ついつい電車内でも時折叫んでしまうが同時に気になることもある。
あの詩織の様子はまるで幼児退行を起こしたかのようであった。
いったい入院中に何があったのだろうか。
詩織宅に赴くと早速彼女の両親が床に手をついて俺に謝った。
リビングのソファーではルームウェアを着た詩織が寝息を立ててねむっている。かわいい
鎮静剤を飲んで眠りについたそうだ。
「済まない、亮介くん! ウチの詩織がとんでもないことを…… なんと言って詫びたらいいのか」
「本当にごめんなさい! 貴方には助けてもらったのに頭を蹴り飛ばすなんて……」
平伏すように謝る詩織の創造主たちの肩を俺は慌てて引き起こす。
「いえ、そんなに謝らないでください。神の創造主たちよ。あの程度むしろご褒美です!」
「……私たちが言うのもなんだがやっぱり怖いよ、君」
顔を強張らせて笑う彼らに俺は早速本題をぶつけた。
「詩織が目覚めたのは僥倖です。心の底から僕も喜んでます。でも今朝の詩織はまるで幼い頃に戻ったような感じでした。いったい何があったんです?」
その質問に頷き彼らは俺の目を見て訥々と話しはじめた。
「そうだね、君にも聞く権利はある。
あの事故から一ヶ月経つね…… 外傷もなくほとんどダメージもないはずの詩織が目を覚さなくなってから私たちはお医者さんと相談してあらゆる治療法を試みた」
彼らは温かいお茶を俺に勧めながら情報を整理する様に説明を続ける。
「ところが詩織は一向に目を覚さない。途方にくれた私たちは医者の1人からある提案を受けました。『これはまだ学会にも発表していない治療法ですがそれでよければ』と。
私たちは頷くしかありませんでした。現状打てる手はなかったから」
「そうして、その医者の治療を受けてから数日、今日目を覚ました詩織は、病院の監視を掻い潜りあっという間に学校に登校すると今朝の有様になったわけなんだよ」
詩織の両親はソファーで眠る詩織を見遣りながらますます複雑な表情になる。
それはそうだろう。
詩織が目を覚ましたのはいいが、いったいどんな治療を受けたのか調査の必要がある。
「……その医者の名は」
俺が尋ねると眉根に手を当てて詩織の父親が重々しく口を開いた。
「升人和男先生と言うらしい。天才とも狂科学者とも言われてる人らしいんだが、詩織を目覚めさせてくれたのは確かなのでね…… どうしたものか」