19 決着
俺は眠らされ床に倒れる詩織を見つめながら、どす黒い怒りを滾らせる。
ヤクザたちは慄きながらそんな俺を遠巻きにみつめているようだ。
指先の痛みなど気にならないほどに怒りの感情が俺の胸を覆い尽くす。
ニヤけるヘイフォに向かって俺は一歩踏み出した。
「ヘイフォォォ……! お前は……! 絶対に……! ゆるさねえ……!」
ヘイフォはヘラヘラと笑いながら余裕の表情でゆっくりと距離を測るように俺の周りを回る。
「ハハハハ! 身体フラついてるネ! 顔色もサイアク‼︎ そんな状態でワタシと戦うつもりカ? わらわせるネ‼︎」
確かに満身創痍。
怒りだけが俺の身体を動かしている。
俺はフラつきながらもヘイフォを目で追い構えを崩さない。
「……うっせえ かかってこいよ! ……殺し屋クソ野郎‼︎」
「あーあ。お前面白かったけどやっぱり殺すネ」
そういうと一気に距離を詰めて蹴りを繰り出してきた。
「……ぐっ!」
ヘイフォの攻撃を避け切れず、俺は腹に蹴りを受け床を転がるように倒れる。
「じゃあな、生意気なクソガキ。こんなとこを遊び場に選んだお前が悪いネ」
そして倒れた俺に向けて紐付きの刃物を投げてきた。
俺はなんとかその刃物は転がりながらかわしヘイフォに向けて投げ返す。
ヘイフォは刃物をかわすと意外そうに俺を見つめてきた。
「⁉︎」
「面白え武器つかいやがるな……! クソ野郎!」
「チッ‼︎ しぶといネ‼︎」
再びヘイフォが距離を詰め、蹴りを繰り出してきた。
綺麗に攻撃をかわすのはあきらめる。
俺は今度は正面からヘイフォの蹴りを腹で受け止め、その脚をがっちりと掴んだ。
「このっ! 離すね!」
焦り始めたヘイフォにあえて笑い返しながら俺は脚を掴んだまま回転する様に倒れ込む。
「……ガアッ⁈」
グキリ、と脚の骨の折れる音が聞こえるとヘイフォは無様な悲鳴をあげた。
そして俺はヘイフォの上に跨ると拳を固める。
「今度こそ……! とらえたぜ…… クソ殺し屋ぁ‼︎」
そして俺は思い切りヘイフォの鼻面に向けて拳を振り下ろした。
「……ふ ふぐぅ⁉︎」
構わず俺はヘイフォが気絶するまで二十発ほどパンチを叩き込む。
顔をボコボコに腫らしながらヘイフォは完全に気を失った。
肩で息をしながら俺は後方で見守るヤクザどもを振り返る。
「せ! 先生ぇぇぇ⁉︎ クソッ! 役立たずめ‼︎」
俺は呆れながらヤクザのリーダーらしきおっさんに、狙いを定め距離を詰める。
「おいおい、散々先生の背中に隠れといてそりゃあひでえんじゃねえか? ヤクザのおっさん?」
「チッ! くるな! クソガキ‼︎」
「悪いなあ、もう体力の限界なんだ…… 力の限り殴らせてもらうぜ」
部下のヤクザどもは青ざめながら、その様子を見守るばかりだ。
組長のおっさんは、後退しながら半ばヤケクソ気味に叫ぶように呪いの言葉を吐く。
「お前⁈ なんで……? なんでウチの事務所なんかにカチコミかけてきやがったあ⁉︎ ババアが騙されたからってお前らみてえなガキは黙って学校で勉強してりゃあいいんだ‼︎ ついてねえ! ついてねえぜ‼︎」
「そうだな…… 俺も本当なんでこんな事になったのかわかんねえ…… 正義感なんて欠片も持ち合わせてねえ人間だ。でもな、お前らを見てると詩織のストレスの原因が何となく分かったぜ」
おっさんの襟首を掴むと俺は思い切り右腕を振りかぶる。
「俺もお前らみてえなのを見てると本当イライラするぜ……!」
「ぶげぇ……‼︎」
鼻にパンチが入るとおっさんは一撃で吹っ飛び、白目を向いて倒れ込んだ。
ヤクザどもは青ざめながら悲鳴のような絶叫をあげる。
「く、組長ーー⁉︎」
力を使い果たした俺はその場に手をついて倒れ込む。
景色が揺らぐ。
もうまともに立ち上がれそうもない。
俺のそんな様子をみたヤクザたちは、ヒソヒソと相談しなからこちらを見遣る。
反撃してくるまでに逃げないと……
「……この人数はちょっと無理かな」
肩で息をする俺に渡辺の声が聞こえてきた。
「大丈夫、中田くん。そろそろ警察がくるよ」
「……何?」
俺が振り返ると顔に痣をつくった渡辺が、震える栗原さんの手を取って神妙な顔をしていた。
そうしているとすぐにパトカーのサイレンの音が聞こえてきて、ヤクザどもが慌てふためく。
「ヒィィィィィィ! サツだ! サツが来やがった‼︎」
「おしまいだぁ! うちらはもうおしまいだ!」
渡辺が警察に連絡したらしい。
俺は力を振り絞り、眠ったように倒れる詩織の横へと移動するとその横へとどっかと倒れ込む。
「まったく、俺らもパクられるじゃねえか…… くそ渡辺」




