13 偽造の権利書
そう言って栗原さんは鞄から資料を取り出した。
机に広げられたそれを見てヤクザの組長らしいそいつは目を見張った。
「こちらは港区の優良物件でございます。もう使い道がない、と売り払いたい方がおられましてね。不動産の扱いがうまいというこちらに伺った次第ですよ」
栗原さんが机に広げたのは港区の一等地のとある物件の権利書だった。
もちろん、俺の偽造だ。
アホなヤクザなら偽物かどうかすぐには分からないだろう。
組長は資料の一つをじっと見つめ、そして栗原さんに視線を移す。
「へえ、若いのに大したものを手がけてやがるな。どこでウチのことを?」
冷たいその視線を耐えながら栗原さんは笑顔を無理に作る。
「○○不動産からですわ。以前こちらと大変有意義な取り引きを出来たとか」
○○不動産は実在の会社名だ。
以前こいつらと取り引きを交わした企業は調べてある。
その企業からは旨い仕事を貰ったことがあるのだろう。
組長は資料を読みながら汚い笑みを浮かべる。
「そうか、そうか。ウチは優良企業だからなあ」
ようく言うぜ、この悪徳ヤクザ企業がよ。
隣でモニターを見つめていた渡辺が心配そうに肩を揺すってくる。
「ねえ、中田くん、大丈夫なの? いつバレないか心配だよ……」
「落ち着けって、渡辺。その時はその時だ。俺とお前でヤクザをボコって逃げよう」
ため息を吐きながら渡辺は首を横に振った。
「……本気かよ? 僕、君ほど腕っぷしに自信ないよ」
詩織は飽きたのか携帯ゲーム機を取り出しスイッチを入れようとしていた。
「ねえねえ、りょうくん? ゲームやっていい?」
相変わらず我が女神はマイペースだぜ。
だが今は修羅場だ。
スナック菓子を渡して大人しくさせることにした。
「ダメだ! 静かにお菓子食べてなさい」




