12 オレオレ詐欺事務所
渡辺の話を聞いた3日後、俺と詩織と話を持ってきた本人である渡辺はとある事務所にこっそり仕掛けた監視カメラの映像をモニターで見つめていた。
「ばあちゃん、俺だよ! 俺、俺! さっき車で人轢いちゃってさあ……」
「じいちゃん、俺だ! 俺! さっきタチの悪いヤクザに絡まれちまってよお」
強面の男たちが声音を変えて必死の演技をしている様子に思わず俺は吹き出してしまう。
「笑わせるなあ、迫真の演技じゃねえか」
「ヤクザ屋さんの演技、クッソきめえね! りょうくん!」
「……大丈夫かな 改めてみるとガチ犯罪組織じゃないか」
渡辺が顔を青くしながら肩を震わせているのが見て取れる。
俺たちが監視しているのは所謂オレオレ詐欺を営むヤクザ事務所で、これから仕掛けを行う予定だ。
渡辺の想い人である栗原さんの祖母が先日、この組織のオレオレ詐欺に遭って寝込んでしまったそうな。
泣いている栗原さんを見かねて渡辺は俺たちに相談を持ってきたようだが、当初俺はその依頼を断った。
俺たちは確かに学校の問題教師や問題児相手に先日暴れたばかりだが、別に正義の味方ではないし、慈善事業をするつもりもない。
ただ詩織のストレスを取り除く為に始めたことだ。
しかし、渡辺の話を聞いてしまった詩織はノリノリで「今度はヤクザ屋さんぶっ潰そ⁉︎」とか言い始めたので、仕方なく俺は暴力を使わずに栗原さんの祖母の金を取り戻す策を練った。
首尾は上々といったところか。
ヤクザ事務所の隣のビルの影に潜み、様子を伺う俺たちは時計を見遣る。
そして耳元に小型の通信機を嵌めたスーツ姿の栗原さんに目を合わせ頷いた。
渡辺は緊張を隠せない栗原さんの肩を叩いて、笑顔を作る。
「よし、行こうか栗原さん。大丈夫、何かあれば2人が暴れて逃がしてくれるから」
「おい、簡単に言ってくれるなよ」
こいつ、俺たちを暴力装置か何かだと勘違いしてるらしい。
やれやれだ。
やがて、栗原さんが事務所の戸を叩き、ゆっくりと部屋に入る様子がモニターに映し出された。
驚いたヤクザ数名が扉の方を振り返る。
「なんだぁ?! お嬢ちゃん? ここはあんたみたいな嬢ちゃんが来るとこじゃないぜ?」
栗原さんはひきつった笑顔を浮かべ声を絞り出す。
ここ数日、練習した流れだ。
「いえ、私はこれでも成人してます。今日はビジネスの話に来ました」
案の定、ヤクザたちは青筋を立ててしっしっと手を振る。
「ビジネスだあ? 間に合ってる! 帰れ! 帰れ!」
しかし、部屋の奥のソファーに座るとりわけ強面の男が野太い声で笑った。
「まあ、いいじゃねえか。話くらい聞いてやろうぜ」
「くみちょ……いや社長」
そうか、こいつが組長か。
俺は栗原さんの耳元のデバイスに何を喋ればいいか通信する。
栗原さんは間を置いて俺の言った通りに答えた。
「まあ、助かりますわ。話のわかる方がいらしてくれて」
「で、なんだ? ビジネスの話ってのは」
栗原さんはニコリと笑顔を浮かべ机に置いた鞄を開く。
「はい、見てほしいものがございます」




