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10 引きちぎる

あれから詩織が描く落書きをよく確かめてみた。

弱い者いじめをする悪のロボットに、セクハラクソハゲ怪人……


これは恐らく詩織がぶっ飛ばしたいと思っている現実の悪人たちをモチーフにした落書きなんだと気づいた。


……こいつらが詩織のストレス源なのか?


今、俺と詩織は廊下の端に隠れ、ジャージを来たデブが女子生徒の足を摩るのをじっと見つめていた。


「うーーむ。スカートの丈が短いんじゃないか? 後で指導室に来い」


女子生徒は涙目になりながら、震え声で項垂れた。


「……そんな 先生に言われて前より長くしたのに……」


下卑た笑みでジャージを着た学年指導の男は女子生徒を睨みあげる。


「ん? 俺の言うことが不服か? だったら教員会議にかけてもいい。お前の推薦も取り消しになるだろうなあ〜」


「ううっ……! わかりました…… 言う通りにしますから…… グスッ」


泣く泣く頷く女子生徒に学年指導の岩本は、下卑た笑みをますます歪め、生徒の肩を摩り更に脅しをかけているようだった。


「分かればいいんだよ。じゃあ待ってるからな⁈ 逃げるなよ⁈」


生徒指導の岩本はこういった手段で時折り女子生徒にセクハラを働いている、という噂があったがどうやら本当らしい。


一緒に見ていた詩織がこちらを振り返る。


「りょうくん‼︎」


「あー、はいはい。わかった、わかった。フリキュアシオリの出番はあるから」


今にも飛びかかっていきそうな詩織を押さえながら俺は宥めるが、詩織は頬を紅潮させて抗議する。


「違う‼︎ わたしはスーパールイーズちゃんであり、伝説の戦士フリキュアピンクなの‼︎」


「……わかった わかったって……」


ため息を吐きながら俺たちはその場を後にする。

どうやら詩織の嫌いな奴らを全員ぶっ飛ばさないと終わらないらしい。





先ほどの女子に「行かなくていい、豚は今から消えるから」と言うと怪訝な顔をしながら、それでも礼を言って去って行った。

生徒指導室の扉を乱暴に開けると、座っていた岩本がニヤつきながら振り返る。

やっぱりキメェなこいつ。


「よし来たな。早速指導を……なんだ⁉︎ お前誰だ! お前なんか呼んでないぞ⁉︎」


振り返った岩本は驚きながら俺の顔を見て立ち上がった。


「悪かったな、変態野郎」


「ひっ⁉︎ なんだぁっ⁉︎ ぐべっ‼︎」


早速左ジャブと右アッパーで岩本の鼻と顎を打ち抜いてやった。

床に転がる岩本を顎でしゃくり、俺に続いて入室した詩織を呼ぶ。


「さあ、詩織。出番だぞ」


詩織は決めポーズをとりながら、倒れ込んだ岩本に指を突きつける。


「気弱な女子生徒を密室に連れ込んで、セクハラするなんて許せない‼︎ このルイーズちゃんがアンタをブチリと引きちぎる‼︎」


……何を引きちぎるんだ?

俺は戦慄しながら売られていく小牛を見る目で、鼻血を流して床に這いつくばる岩本を見つめる。


「怖い、怖い! まあほどほどにしとけよ詩織」


近づいてくる詩織に怯えながら岩本は混乱しているようだ。


「ひぃぃっ⁉︎ なんなんだ‼︎ おい! 俺は学年指導の岩本だぞ⁉︎ こんなことしてどうなるかわかって……」


「うるさいっ‼︎ ワルイダーに身体を乗っ取られたわるものめっ‼︎」


「ぐべぇっ‼︎」


詩織のトゥーキックが岩本の股間に決まる。

岩本は股間を押さえて悶えながら床を転がった。


俺は転がる岩本に追いつくとその薄い頭髪を掴みながら醜いその顔を拝んでやる。


「岩本先生よお…… 俺はどうでもいいんだが、アンタの存在が詩織のストレスになってるみてえなんだ。なあ、女子生徒にこんなところでセクハラするなんて犯罪だろ? 小学生でもわかる事もわかんねえのか? いっそもう死んでくれ? な?」


岩本は痛みで涙を流しながら必死で何かを訴えてくる。


「何を言ってる⁈ こんな…… こんなの校内暴力だぞ⁉︎ 絶対タダで済ませないからなっ! それに二ノ宮詩織⁈ 俺はお前と話したことすらないだろーが‼︎ 何もお前に危害など加えて……くぶっ‼︎」


詩織の蹴りが再び岩本の股間に命中した。


「このっ‼︎ セクハラクソハゲ怪人めっ! 私がつぶしてやるっ‼︎」


岩本も床を転がりながら股間を押さえ逃げようとするが、ガードの上からでも詩織の蹴りは飛んでくる。


「や、やめろっ‼︎ やめろ二ノ宮‼︎」 


「やめないっ‼︎ つぶれろ!」


詩織の蹴りが三度岩本の股間へと突き刺さる。


「……ギャアアアアアアアア‼︎」


岩本は絶叫を発すると血尿を流しながら白目をむき、泡を吹いて気を失った。



俺は醜いそんなゴミを見つめながら、気が済んだ様子の詩織の肩を叩く。


「さあ、捕まる前に次のゴミを掃除に行くか」


「うん‼︎」


満面の笑みで俺の女神は飛び上がりながらそう返事した。

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