アンside②
ジンジンと熱を帯びているそれは不甲斐ない己の戒めなのにな…と思いながら歩いていると前方からユースが歩いてきた。
「え!?ティターニア大丈夫!?」
鏡を見ていないからわからないが、そんなに酷いのだろうか。
「大丈夫です。今から救護室に行ってきます」
「…とりあえずこっちに来て」
救護室はお預けになり、ユースの後についていくと騎士団長室の前に辿り着いた。正直今は気まずいので回れ右したい。
―コンコン
「はい」
「入るよー」
緩い感じでユースがドアを開けると、眉間に皺を寄せたレンブラントが書類から顔を上げた。後ろにいたアンを見て目を大きく広げている。
「…その頬はどうした?」
地を這うような低い声でそういうレンブラントは先ほどよりも眉間に皺が寄っている。
「自分でやりました」
「…そうか。ユース、ティターニアと話がある。下がれ」
「はーい」
そそくさとユースが出ていくと重苦しい沈黙が流れる。
レンブラントは徐に椅子から立ち上がるとアンの方へ近づいてきた。アンの傍で止まると、レンブラントの両手が頬を包んだ。その手が上に向けられて、視線が交わる。
眉間に皺を寄せていた先ほどまでの顔とは違い、困った顔をしているレンブラントはアンの頬をそっと撫でると魔法を使って治した。
先ほどまで腫れて熱を持っていた頬は平常通りになったのにも関わらず、両手で包まれたままだ。
「だん、ちょー…?」
頬を撫でているレンブラントに声をかけると、撫でていた指が止まる。
「…心配、かけさせるな」
「心配?」
「ああ。可愛らしい顔が腫れあがっていて吃驚したぞ」
甘い言葉に思わず顔が赤くなると、ふっと嬉しそうにレンブラントは笑い、頬を包んでいた両手は離れていった。
「どうしてこんなことを?」
「訓練に集中するために気合を入れたのですが、思った以上に強く叩きすぎてしまったようです」
「そうか。集中するのは大事なことだが、怪我がないようにしてくれ」
「かしこまりました」
レンブラントの右手がアンの頭を優しく撫でる。
「今度怪我をしたら、俺はアンをどこかに閉じ込めてしまうかもしれないぞ」
「…なに、を、」
「冗談だ」
冗談に思えない顔でそう言うと、レンブラントはアンの髪を一房取ってキスを落とした。
「これは許してもらえるだろうか?」
甘えるように言うレンブラントに目が眩みながらも「ギリギリセーフかと…」と辛うじて返事をすると、レンブラントは嬉しそうに笑った。
「ぐっ…」
「どうした…?」
貴方のその笑顔にやられましたとは言えず顔を真っ赤にしながら小声で「なんでもありません」と答えた。
どうにかしてこの場から去りたい…!ただその一心でレンブラントから距離を取る。
「く、訓練に戻りますので…!」
アンはレンブラントの答えを聞かず顔を伏せて騎士団長室から走るように退出したのだった。