レンブラントside①
「騎士団長!結婚してください!」
「………は?」
盛大な間抜け面になった数時間前―。
――――――
「また、か…」
騎士団長室である書類を見てそう呟く。
それは定期的に行われる試合や体力テストの書類で、上位には同じ名前が目立つ。
名はアン=ティターニア。
ティターニアは北方の要と呼ばれ、魔物から国を守る最前線だ。その為、北方の騎士は血の気が多い。そんな彼らを束ねる辺境伯爵家は代々不思議な力を持っている。かつての先代が竜を倒した時に得た力だと言われているが、一部では呪いとも言われるほど圧倒的な力で制御が難しい。
戦いながら制御の仕方を学ぶというその力は代々男にしか顕現しなかったが、何故か女であるアンにもその力が宿っていた。その圧倒的な力を持ちながら女であるということに苦労したと面接では言っていたが、柔軟性や体幹が良いことから歴代の当主たちとは違った良さがあり、あらゆる面で秀でている。
そんな彼女は幼い頃から辺境騎士団で鍛えてきたからか、貴族の女性には珍しく、髪が顎の辺りで切り揃えられている。身長は騎士団の男より少し低いだけなので、貴族の女性と比較すると高い。細身であるがその実は筋肉で引き締まっている。…でなければ筋力テストでこんな点数を叩き出さない。
人あたりもとても良く、仲間の騎士とは仲良くしているが、一部の貴族令嬢には嫌われてしまっているのを気にしている、らしい。
しかし彼女が最も気にしていることは弟のことだ。彼には力が顕現されなかった。姉である彼女が奪ってしまったからだと周りに言われ続けている。一度会ったことがある弟は物腰が柔らかい青年で姉を慕っていた。姉弟の仲は良好のようだが、一緒にいることで姉が悪く言われるのを気にしている弟は彼女と少し距離をとっている。
と、ここまでティターニアのことを細かく知ってしまったのは副師団長のユースがペラペラと彼女のことを話すからである。…レンブラントが何も言っていないのにも関わらず。
「なにー?またティターニアが上位に食い込んでるの?」
「ああ」
「凄いね、さすがだ。また後方支援の女性の方々からお祝いが送られてきそうだ」
「そうだな…」
軍には一部であるが女性が勤務する後方支援の部署がある。ティターニアほどではないが軍部のものとして鍛えられている彼女たちからすると、ティターニアは高嶺の花だ。
彼女の強さを見ると惚れないものはいないという。
きゃあきゃあ言われてティターニアは苦笑いしているが、そんな彼女と接しているうちに更に惚れこみ、試験で好成績を取る度(毎回)贈り物が送られてくる。
本人は困り顔で断ってはいるものの、好物のお肉が届くと有難く頂いているからちゃっかりしている。
「で、ティターニアの何が気になるの?」
「…女性だから前線を外せと言われた」
「はっ!?あの子は前線じゃないとダメだろ」
書類仕事も苦手ではないようだが、実践の方が好きなのは目に見えている。しかも幼い頃から辺境で鍛えられているのだ。可愛がられていたであろうが、生半可な気持ちでは魔物になど立ち向かえない。そのシビアさは王都よりもあちらの方が身に染みて理解している。
「今時女性蔑視など流行らぬと言っているが、頭の固い役人どもは理解しない」
「あちゃー、それで喧嘩になったと?」
「知ったことか」
先ほどの会議で役人を怒鳴り散らし青ざめた顔にしたのは言うまでもない。部下が悪く言われてこれで済むだけマシだろう。もしうちの者がそういう発言をした場合はその日から一週間訓練を倍、更に特別なメニューをこなしてもらう。
「で、それだけじゃないだろう?」
「…王からサジェスト嬢との結婚を申し付けられた」
「はあ!?!?サジェスト嬢っていったら、隣国で数多の男と浮名を流してるっていう嬢ちゃんじゃねえか!」
「隣国との繋がりが欲しい、らしい…」
「いやあ、ないわ。お前のその堅物を知ってのそれはない」
「だからと言って断れるわけもなかろう」
「確かに…」
「はあ…」
この日一番の盛大な溜息をついたはず、だった…。