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神喰の白蛇  作者: ミスト
魔物の主
9/40

制裁

それが起きたのは、クルルがこの国に来る数日前のことだった。




森の中を歩く二人の魔物使いがいた。

片方は革の鎧を、もう片方は鉄の鎧で身を固め、何かに備えているようだ。

後ろには連れの魔物が二匹。翼を羽ばたかせる緑の小竜と、大型犬くらいの大きさの蜘蛛だった。

魔物達も警戒しながら、従順に二人の後を追う。


「見つかったか?」

「いいや、ダメだ。魔物はちょくちょく見るんだが…そっちはどうだ?」

「いや、だめだ」


情報を交換し合う。どうやら探し物のようだ。


「なあ、騙されたとかじゃあないよな」

「俺もそうだと思いたいがな…」


進展のなさに疑心暗鬼になる二人。


森に出かけた人間が帰ってこない。


始まりはこの噂からだった。最初はただ森で迷子になり、魔物にでも襲われたか。

冒険とは常に危険と隣り合わせであり、まだ未開の地である事もあって別段珍しいことではなかった。

だがその報告が増えていくにつれ、国はこの事を危惧するようになっていた。

そうして派遣されたのは二人の魔物使い。勇者には及ばないものの、かなりの手練れ。

魔物とのコンビネーションは目を見張るものがあった。


「日が沈んできたな」


片方の男が空を見上げ、呟く。空が朱く染まり始めていた。


「そう、だな…一旦戻ろう。魔物達も休ませたい。何より夜は危険だ」

「はあ、上の奴らになんて報告すりゃ…」



「いや、お前達はここで死んでもらう」


「!!」

二人が声に振り替える。さっきまでなかったはずの気配。目に映ったのは…


血のように紅いマント。

闇より深い角。

そして威圧する赤い目。


人の形をした魔物…魔の王とも言うべき威厳を称えた男がそこにいた。

魔王。二人は直感で理解した。こいつは――危険だ。


「お前は…!」

「アンタの仕業ってことか…最近の行方不明者は」


二人の言葉に魔王をふっと笑った。


「成程、噂になっているということか…最近は妙に侵入者が多い。私としては助かっているのだがね」


二人の魔物使いの前に小竜と蜘蛛が躍り出る。二人も剣と弓を構えた。


「じゃあやっぱりアンタが…!」

「ああ、丁度良い。ここでとっちめて手土産にしてやる。」


「セイル!」「パルダ!」


二人の叫びに合わせて、竜が火を吐き、蜘蛛が糸を吐き出す。

魔王はそれを一瞥すると。


「はっ!」


寄せたマントを翻すと、突風が吹き荒れ、糸と炎を吹き飛ばした。


「うおっ!なんだ、コイツ!」

「そう簡単にゃいかねえか…」

二人は風に吹かれ、思わず腕で顔を隠す。

魔王はため息をついた。二匹の魔物を見据えて、口を開く。


「人間というのは弱い生き物だ。お前達魔物は、人間に支配されるような生き物ではないはずだ」


「私と一緒に来い。そいつらといては、お前たちは幸せにはなれん」

二匹の魔物に語り掛ける。ただの勧誘。だが、その言葉には魔物達の心に強く働きかける。


「てめえ、何いってやがる!俺の魔物を…」

「パルダ!もう一発糸を…」


二人は驚愕した。二匹の魔物は――魔王の傍へと動き出したのだ。

襲い掛かる様子もない、まるで長い間一緒に戦ってきた仲間のように。


「いい子だ」


魔王の手が魔物達を撫でる。そこには確かに慈愛があった。


「嘘だろ…オイ!セイル」

「パルダ!何やってんだよ!」


二人は声を上げるが、魔物は見向きもしなかった。

魔王は鬱陶しそうに二人を見据える。その眼には怒りがこもっていた。


「黙れ、人間…愚かで矮小な生き物め。お前達が魔物を操ろうなど、千年早い」


男は手を突き出すと、魔力が集っていく。


「…っ!ちくしょう!」

「逃げろ!責めてお前だけでも…!」


片方は逃げ出し、片方は弓を構える。

攻めて一撃。逃げる隙さえ作れれば。

相手についた魔物に気をやっている暇などなかった。

だが…


「死ね」


放たれる魔法。赤い波動となり、周囲を吹き飛ばし――






また二人。森から帰らぬ人となった。







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