灰塵
「勇者様が…?」
プレシアの言葉に、クルルが光の玉へ視線を投げる。
山より大きい光の玉―――あれが爆発でもしようものなら――
「止めないと…お兄ちゃんを…!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「何だと…!?」
白蛇の言葉にソルが驚いたような声を上げる。
「怪物…今更嘘で僕を騙そうというのか」
「僕の力の前に恐れをなしたのか!!」
『いいや』
白蛇はきっぱりと答える。
『お前のその攻撃、俺は受け切る自信がある』
『そして強すぎた力は、辺りを吹き飛ばすだろうさ』
『それがわからないほど馬鹿じゃあねーだろう?』
「…」
ソルは今まで全力で戦うという事がなかった。
理由は――強すぎたからだ。
ソルの魔法の威力は圧倒的。
最低限の魔力で強敵を捻じ伏せて来たため、ここまで力を使うことはなかった。
それはつまり力の調節が不慣れであるという事だった。
そして怒りに任せて、全力で魔法を発動してしまった。
頭上に浮かぶ魔力の玉が爆発すれば―――
『まあ、大陸の半分は吹っ飛ぶだろうな』
「! そんな…」
怒りのこもった顔がみるみる焦りの表情に変わっていく。
今はまだ魔法を放ってないが、いずれは爆発するだろう。
魔力を戻す事もできない。
「僕が国を滅ぼすなんて…!」
しかも、先程から魔力の放出が止まらない。
まるで無理矢理に爆発させんとばかりに。
『クク…おいクソガキ。それを消す方法があると言ったらノるか?』
「何!?…怪物め、何のつもりだ!」
『おっと、話してる暇はあるのか?このまま全部吹き飛ばしたくなかったらな』
『俺に大人しく喰われることだ』
「は?」
あまりに蛇に都合がよすぎる提案に、素っ頓狂な声を上げた。
「怪物!ふざけているのか!?この状況で…!」
『ふざけてなんかいねえよ…俺がその魔法ごと食らってやるよ』
白蛇の提案。魔法ごと勇者を食べて消してしまおうというのだ。
『なかなか強烈な爆発だろうが…まあなんとかなるだろ』
「なんとかって…」
『俺は別に国がどうなろうが構わないけどな…他に方法はねえぞ、さあどうする!国を吹っ飛ばすか、俺に食われるかだ!!』
「……わからない」
『あ?』
「どうして僕達を助けるような真似をするんだ?」
「お前は僕をどうしたいんだ!?」
『そんな事か…なんてことはねえ』
『俺は奴らの思い通りになるのが大嫌いなだけだ』
『だから、喰う』
がば、と白蛇は大きな口を開いて──
風の音を鳴らすほどに、強く吸い込み始めた。