激突
まるでその合図を待っていたかのように、白蛇が動き出す。
ずるずると草花を潰しながら大地を蛇行する姿は威圧的。
何よりその巨体に見合わずかなり早い。
「魔弾射出!!」
ソルの手から高速で放たれる魔力の弾。
それは正確に白蛇に直撃し、土煙が吹き上がった。
「よおっし直撃だ!大した事ないぞ!」
スレッジがガッツポーズをする…が。
煙から飛び出してきた巨体は無傷だった。
先程と同じように蛇行を開始する。
「嘘だろ!?」
「…いや、想定通りだ。皆、第一作戦だ!!」
ソルの言葉を合図に、魔術師団が一斉に魔弾を撃ち出していく!!
雨のように降り注ぐ弾を、時には受け止め、時には回避しながら突き進んでいく。
「くそっ、思った以上に速い…!皆、下がれ、下がっていけ!!」
魔術師団が宙に浮きあがり、後ろへと下がりながら連射を続ける。
白蛇はそれを執拗に追い続け、少しずつ距離を縮めていく。
「団長!効いていないのではないですか!!」
「構わない、いいから打ち続けるんだ!!」
そうこうしているうちに、先頭の数人の元に白蛇が辿り着く。
「不味いぞソル!先頭が狙われる…!」
慌てるスレッジをよそに、ソルはただ観察していた。
「ぐっ、速い…しまった…!!」
「く、喰われる…!!」
そうして鼻先まで迫った数人を―――白蛇は意にかえさず、弾き飛ばしながら突き進んでいく!
「なんだあいつ――無視してこっちに突っ込んでくるぞ!!」
「そうか、やっぱり…僕が狙いなんだ!」
「奴は僕以外眼中にないんだ!!」
激しく蛇行しながらソルを追いかける白蛇。
途中途中の魔法使いをガンガン弾き飛ばし、迫っていく。
「なんてパワーだ…! ソル急げ!援護する、スピードを上げろ!!」
「くそっ、間に合うか…!?」
(こいつら…何か企んでやがるな)
白蛇が思考する。
何か作戦がある――相手の動きに感じる違和感。
何を考えているのかはわからないが。
『面白エ!作戦ごと叩き潰してやろう!』
白蛇を襲う高揚が、更にスピードを上げていく。
四方から飛んでくる魔法をものともせず、ソルの目の前まで迫ったところで、ソルが振り返った。
『なんだ、鬼ごっこは終わりかよ』
「これは驚いた…本当に喋るとはね」
『ククッ、これからもっと驚くぜ…飯の時間だ』
ぐわっと口を開き、白蛇がソルを飲み込もうとする――
「ソル!」
「ソルさん!!」
魔法師団が口々に声を上げる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
それを遠くから眺めるクルルの元へ、予言者のプレシアが近づいてきた。
「どう?心配かな?」
「…そうですね…勇者さんには、負けてほしくないです」
ああして真面目に戦っている所を見ると、やっぱり白蛇の言葉は嘘ではないかと思えてくる。
「ふふ、心配しないでいいよ。私のお兄ちゃんは、天才で最強で、無敵なんだから」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「…それはこっちのセリフさ!今だ!!」
『何!?』
がくん、と白蛇の体の位置が真下へ下がる。
地面の下まで。あまりにもシンプルな罠。
シンプルであるがゆえに気取られにくい――
『落とし穴だと!?なんつー陳腐な…!!』
白蛇を落とすほどの巨大な落とし穴。
それを勇者は見下ろして笑った。
「その陳腐にハマったのは誰かな…さあ、反撃だ!」