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神喰の白蛇  作者: ミスト
魔物の主
20/40

制止

「止めろだと…今お前が言ったのか?」


魔王があり得ないといった風に、竜を――ラニスを見る。

悪魔の少女に支えられながら、彼女は頷く。


「ああ…もう終わりだ、マスター。我々は負けたんだ」


「何いってるんだ…僕はまだ負けちゃいない!まだ試してない魔法だって…」


「マスター…どうして気付かないんだ。貴方は魔物を愛していたはずだ」

「倒れている魔物達は…まだ生きているんだ」


「!!」


気づく。魔物達は――確かに。倒れて動けないでいるが。

呼吸するもの、うごめくもの、痛みに震えるもの。

倒れている魔物達が全て生きていることに気づく。


「わかっただろう、マスター…戦いをやめて治療すれば魔物達は助かる」


「…だったら、ここで早くこいつを倒して…!」


「そんな事をしていたらみんな死ぬぞ!」


叫ぶ。体の痛みをものともせず、竜は叫んだ。

子供をなだめる様に。


『回復魔法でも使うか?その瞬間にお前を食らうけどな』


白蛇からの忠告。白蛇も魔王がどう動くか、興味があるようだった。

魔物を見捨てて戦いを続けるか。

魔物を回復して喰われるか。

あるいは全てを捨てて逃げるか。



「僕は…」


進退窮まった魔王は、決断をした。

両腕を広げ、そこから広がる魔力。

淡い光となって、周辺に降り注ぐ。

回復の魔法が、倒れている魔物達に降り注いだ。

瞬く間に魔物の傷が回復していく…


『…上出来だ』


白蛇はにやりと笑い――魔王に喰らいついた。


「…さよなら、僕の魔物達――」

「…マスター…」



もむもむと白蛇の口の中で数秒間。あっという間に魔王が体液塗れになったころ。


『べっ!』


そうして吐き出す。驚いたようにラニスが顔を上げた。


「えっ…えっ?マスターを喰うのではなかったのか?!」


『だから喰ったんだよ。そいつから力をな…もうただの人間と変わらねえ』

『あとはお前らの好きにしろよ』


満足げに舌を出す白蛇。吐き出された魔王に面影はなく、ただの少年に戻っていた。

最初に勇者を食べた時と同じように、その魔力はすっかり無くなっていた。


「ああ、マスター…生きてるのか…そうか…ははは…」


傷ついた体を引きずり、ラニスはリクの元へ歩いていく。


「うう…」

「マスター…生きているぞ、お前は…これで人を滅ぼすなんて計画もおしまいだな…はは…」


目が覚めて、無言でラニスを眺めるリクへと笑いかける。

失敗はしたが、どことなく嬉しそうだった。


「いや、まだ終わってないぞ」


そこへぞろぞろと人々が取り囲む…街の住人達と兵士だ。


「魔王の正体が勇者だったとはな…がっかりだ」

「俺達の仲間を殺したのも魔王だろ!どうするんだ!」

「裁判にかけるしかないだろう…重罪は免れないだろうが」

「というかデカい蛇はどうするんだ…俺らも食われるんじゃないか?」

『ふつーの人間には興味ねえわ』「そうなのか…変な魔物だな」


白蛇を気にしつつも、会話ができれば意思疎通も大したことはない。

少年を取り囲む人々を前に、傷ついたラニスが守るように立ち上がる。


「マスター…もうただの人間なんだろう。私の力が落ちているからな――お前は私が守る…この命に代えても…」

「待って、ラニス…駄目だ…」


そう言って瀕死の体で竜へと変身を試みる―――


「ちょっと待ってください!!」


民衆の後ろから響く声。

声の主はクルルだった。




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