邂逅
ふわふわの尻尾を揺らしながら森の中を少女が走る。
「この森だ、きっとそうだ…だってどう考えたっておかしいもの!」
周辺の木々は綺麗で太陽の光はこれでもかと降り注ぎ森に栄養を与えている。
静かな森の中に異物は何一つない。
「…違う!」
そう、森の中にしては静かすぎるのだ。小鳥のさえずりすら聞こえてくることはなかった。
何より彼女自身が森の奥にいる異質な何かを動物の本能として捉えていた。
(ああ、どうしても逃げたい!明らかにヤバいのが居る!)
彼女の頭の中で本能が訴える。
これ以上先に進んではならないと。
「でも逃げちゃだめだ…仇を取るんだ…!」
だが、ここで引き返してはここまで来た意味がない。
勇気を振り絞ってあるいは無理矢理体を動かして。
そうして森の奥で横たわる異質の正体を目にする。
白い壁…ではない。これは――
「鱗…これは…白い蛇?なんて大きさなの…!」
『ああ?』
重圧的な声が響く。思わず毛と尾が逆立ってしまう。
「しゃ…しゃべった?ひょっとして魔物!?」
『さっきの気配はお前か?マズそうな獣だなオイ』
「ひっ」
マズそう――つまりこの巨大な蛇は食えるかどうか値踏みしたという事になる。
余りにも巨大な相手に自分の味を見定められる――それは死刑宣告に近い。
自分が不味い味だという事を願うしかなかった。それはもう吐くほどに。
しかし白蛇が吐き出した言葉は理性的なものだった。
『お前みたいな雑魚を相手になんかしねえよ。さっさとこの森から出ろ』
心を見透かされたのかいやその怯え方から何を考えたのかはお見通しのようだった。
巨大な蛇はそう言って眠たそうに頭を横たえた。
食べられなくて済んだ―彼女は安堵した。
同時にある考えが頭を過ぎる。
(今なら――仇をとれる?)
ほんの数秒で寝息をたてる蛇の巨体に見合わぬ間抜けな姿を見て思わずバッグに手を掛ける。
中からさっと短剣を取り出した。