欺瞞
「お前は一体…何なんだ?」
『勇者を喰いに来た、しがねえ白蛇だよ』
くく、と白蛇は嘲笑う。
魔王の狼狽えを観察し、楽しんでいるようだった。
「白蛇さん…」
そしてクルルは複雑な気持ちだった。
あれは自分の命を脅かした敵である。
しかし、それと同時に今は頼もしさを感じていた。
「我々はどちらを応援すれば――」
「どちらも敵じゃないのか!?そもそも俺達に勝ち目なんかないだろう!!」
「違います」
兵士達の言葉に、クルルは言う。
「少なくとも――白蛇さんは、私たちの敵にはならないと思ってます」
「何故死んでない!僕の魔法は君程度なら一撃与えれば十分だというのに…!」
『ああ?なんだお前――この程度で俺様を殺せると思ったのか?』
「な…!!」
驚く魔王に対し、白蛇は余裕を見せる。
白蛇に攻撃はまるで効いていないようだった。
突き刺さった朱い槍が魔力が抜けたかようにぼろぼろと崩れていく。
「…ふっ、ふふふ…」
魔王が肩を震わせて、笑う。
「…少し驚いたけど、大したことじゃない。お前がそれほどまでにタフだというなら」
「わざわざ殺す必要はない…ゴミ箱にぶち込んで、蓋をすればいいのさ」
『今から特大のごみ箱でも作るのか?』
魔王の掌の上に黒い箱が現れる。と同時に、白蛇の周りを黒い壁が覆った。
光を全て吸い込みそうな漆黒の箱が白蛇を包むように生成されていく。
『なんだ?今度は手品でもやろうってのか』
「ボイドボックス…相手を次元の壁に閉じ込め、空間ごと異次元に放り込む魔法だ」
魔王の手の上で、黒い箱がくるくると回っている。
「そしてその次元の壁は硬さ、なんていう概念はない」
「絶対に破壊はできない――次元が違う、からね」
「君は未来永劫、無の世界を彷徨うといい」
そして、魔王は魔法を発動しようと――
ぴしり。
魔王に矛盾を叩きつけるように。
実力の差をみせつけるように。
黒い箱にひびが入る。
「そんな――」
魔王は初めて、焦りの表情を見せた。
びしびしびしと、白蛇を包む黒い箱に入った亀裂が大きくなっていく…!!
『オラァ!!!』
白蛇の叫びと同時に、黒い箱が砕け散り、霧のように消えていく。
『種も仕掛けもぶっ飛ばしてやったぞ――さあ、いい加減観念しな』
「…いいや!まだ終わっちゃいない!こうなったら総力を挙げてお前を叩き潰す!!」
その声に最初の頃の余裕も威厳もなく、焦りが見え始めた。
「囲め、我がしもべ達!標的はあの白蛇だ!!」
声に呼応して、城壁の外に這い出てきていた多種多様な魔物が白蛇を囲うように集まっていく。
蜘蛛。竜。コボルト。ゴブリン。蝶。狼。歩く花。ゴーレム。妖精。ワーム。馬。牛。鎧。悪魔。熊。
鳥。キマイラ。カマキリ。溶岩。茸。鰐。一つ目巨人。針鼠。毒蛇。蝙蝠。
あらゆる形、あらゆる型の魔物が集う。
魔王の魔力か、はたまたカリスマ性か。
その眺めは凄まじいものであった。
『ほお、まさに軍団か』
「もうお前の力も耐性も関係ない…数と力で削り取ってやる!」
「君のおかげで台無しだ!…簡単に死ねると思うな!!」
「行け!!」
魔王の言葉を合図に、白蛇へと全ての魔物が飛び掛かった!!