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神喰の白蛇  作者: ミスト
魔物の主
17/40

暴虐

「死んだ…のか…?」


兵士達が動かなくなった白蛇を見つめる。その眼に反射して映る兵士達。

余りにも一方的。竜を苦戦させた白蛇を一方的に叩きのめす力。

これが勇者の本気。


だがその勇者はもはや魔王と化していた。

周りが混乱する中、先頭に居た兵士の一人が口を開く。


「リク殿、その姿は――」


と、疑問が出た時。兵士に向けて巨大な火炎球が飛ぶ。

あっという間に兵士は火に包まれた。


「あ、がっ!熱い!熱い熱い熱いいいいいい!!」


凄まじい高熱で燃やされ、転げまわる兵士。

「これは、何だ…一体…いや、誰でもいい!早く水を!誰か!!」

兵士の一人が叫ぶ。そして魔王を見る。

火炎は魔王が放ったのは明らかだった。


「その汚い口で私を呼ぶな――殺してしまいたくなる」


言葉には怒りと殺気が込められていた。

皆が口を噤む中、一人の少女だけはそれをしなかった。

恐ろしい敵を相手に、質問をぶつける。


「なんでですか…あなたは人々を助ける勇者様ではなかったのですか!!」


叫ぶ。魔王は攻撃することはなかった。

その質問に対し、ため息交じりに。


「勇者ね…最初はそれでもいいと思っていた」


「だけどね――気づいちゃったんだ」


「汚い仕事はすべて誰かに押し付け、自分達は利益を独占し」


「そして利益のために同族との殺し合いも辞さない」


「それなのに――魔物に比べて、物凄く弱い」


「…この世界に人間なんて、必要ないじゃないか」


はっきりとクルルを見据えて言い放つ。

その眼に迷いはなかった。


「だから決めたんだ――この世界から人間を全て消す」


「手始めにこの国から乗っ取ろうと思うんだ」


魔王はにこやかに、国の支配を宣言する。

人々は確信し、恐怖した。

彼は、人類の敵に回ったのだと。

彼一人で、この国を滅ぼすというのも不可能ではない。

勇者とはそれほどの存在なのだ。


「本当はもう少し後の予定だったんだけど」


勇者はぽつりと呟いた。


そして凶報はこれだけではなかった。


「皆、大変だ!大変なんだ…!」


門の内側から慌てた様子で駆けてくる一人の兵士。

息を切らす彼に、同僚が訪ねる。


「なんだ、どうした!今それどころじゃ…」


「魔物が…国中の魔物達が外に向かっているんだ!!」


「なんだと…!」


ざわめき。

彼の言葉によれば、国の魔物が全て人々の制御を離れ、勝手に動き出しているという。

そしてその言葉通りに、国を囲む城壁の内側から魔物の群れが歩いてきていた。

その数は数千にも上るだろう、軍団のような光景は圧巻。


「僕の覚醒と同時に、彼らも動き出したようだ」


「少しばかり予定は早まったけど――まあ計画通りかな」


「これは一体――何が起きているんだ!」

次から次へと起こる情報に人々はただ叫ぶだけだった。


「この国の魔物は全て僕の支配下にある」


「先ずは人間の殲滅といこう。魔物がいたんじゃ本気を出せないからね」


「とりあえず、最初は君達からだ」


魔王の上空に浮かぶ、魔力の塊、巨大な球。

爆発と衝撃の魔法。あれが放たれれば、ここに集まっている人間は一人残らず消し炭になる。

魔王の暴虐を止めようと、クルルはなおも叫ぶ。


「待ってください!貴方の…貴方の言ってることは変です!」


「何が?」


「確かに悪い人もいます、嘘をつく人だっています!でも…」


「そんな人ばかりじゃないはずです!優しい人や誰かのために戦う人だって沢山います!」


「貴方は悪い所しか見えてない!人間にだって良い所は…!!」



「煩いなあ」


魔王は彼女の言葉に対し、喧しそうに首を振った。


「君達に分かってもらおうなんて思っちゃいないよ…これから滅びるんだしね」


「さあ、光栄に思うといい。君達はこれから始まる魔物の世界の…最初の礎となるんだ」


「…ッ」


兵士も少女も、誰一人動くことができない。

少女はぎゅっと目を瞑り、衝撃に備えた。








『へえ』









そこに響く声。

魔王の攻撃の手を止めるには十分だった。







『それがお前の本性ってわけかい』








今まで少女の命を脅かした声。

しかし――それはある意味で、希望だった。

魔王はありえないといった風に、そちらに振り返る。


「そんな…何故生きている…!!」



『よお、王様ごっこは楽しかったかい…魔王様よ!』



全身に朱い槍を突き刺したまま――白蛇が動き出していた。

にやりと口元を歪めて―――。

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