反旗
とうとう蛇の体に牙が突き立った。
白蛇が口を開く――
『墓は要らねえ――ここで死ぬのはテメーのほうだからな!!』
「ラニス!尻尾だ!」
「!!」
竜が危険を察知して飛びのこうと―――いや、一足遅かった。
大人しくなっていた蛇の尾が、目を離した隙をついて竜の体に巻き付いたのだ。
そして腕が離れた瞬間、抑えられていた頭の部分も意気揚々と竜の巨大な体に巻き付く。
あっという間に竜の体を白蛇が覆った。
『形勢逆転ってやつだな、ドラゴン野郎』
「貴様…ハナからこっちが狙いだったか…!!」
『その通り』
さっきまでの諦めはどこへやら、白蛇はしてやったりと不敵な笑みを浮かべる。
『俺様が牙でしか攻撃しなかったのは、テメーの意識を反らすためよ』
『凄まじい毒があると知っちゃあ、誰だって警戒する』
『テメーがギリギリまで近づくのを…油断を待ってたんだよ』
「ぐ…!!」
ぎちぎちと竜の体を締め上げる。まるで万力のように。
余りの力に竜が声を漏らす。
「ラニス…!」
思わず飛び出しそうになるリクを悪魔の少女が抑える。
「駄目だよリクちゃん、危ないって!潰されちゃうよ!!」
「だけど…!」
激しい戦い、もどかしさに狼狽する。
『蛇の力っつーのは強力でね、こうやって締め上げて殺すのさ』
ぎちぎちと万力が力を更に入れる。竜の体から悲鳴が上がる。
食物連鎖の王ともいえる存在が、敗北しようとしていた。
『こいつで終わりだ…一思いにやってやるよ!』
「が…うが…!
あああああああっ!」
みし…みし…ばき、ばきばきばきごき、ぐしゃっ
潰れる音が響く。あまりの光景にみんな動くことができなかった。
竜はしばし痙攣した後…くたりと動かなくなった。
するり、と蛇が竜を開放すると、巨大な竜は元の人型へと戻っていった。
「ラニス…そんな、ラニス…!!」
駆け寄る調教師と悪魔の少女。人の形になった竜の体に触れる。
「ぐっ…」
呻き声。凄まじいダメージだが、まだ死んではいないようだ。
それを感じ、安心したように息を吐く。
「よかった、まだ生きてる…!ラニス、今助ける…!」
「ラニスちゃん!良かった、今回復魔法をかけるから…!」
『おいおい、俺様の事忘れんなよ』
挑発するような声。白蛇は不敵な笑みを浮かべていた。
ぴくり、と声に反応する。リクの体の中からふつふつと殺意が沸き上がる。
「…ラニスを頼む」
「リクちゃん…うん、わかった!」
ゆらりと立ち上がるリク。悪魔の少女は軽々と竜を持ち上げ、離れていく。
「僕は―――アイツを殺す」
今までにない怒りを顔に浮かべ、少年は白蛇へと振り返った。