第93話 ファティリタス復興編 【第1クール】 これからも共に
――洞窟内・大部屋の泉――
「とりあえず、あのスライムは倒せたが、これ、どうするよ……」
カイリさんが毒沼を覗き込みながら言う。
「浄化しないとですね。――解毒薬の数が心配ですが」
「とりあえず、泉に入れてみましょうか」
俺とアンリさんは解毒薬を泉に入れる。泉が発光するが――
「やっぱ足りないな」
「少し薄くはなってる様な気はしますけどね」
泉が広すぎて、1、2本だと効果も薄い様だ。
「あの子達の分も貰ってきましょうか。もう敵もいない様だし。あなた達はそのまま解毒薬を使ってて」
ハンナさんは大部屋を出て行こうとするが――
「待て。やっぱり一人じゃ危ない。俺も付いてくぜ。――お前らは何かあったらすぐ逃げろ」
カイリさんが付き添って行くことに。俺達にそう言い残して、ハンナさんと大部屋を出る。
二人が去った後、俺とアンリさんは、そのまま泉に解毒薬を注ぎ続けた。
◆
「大分薄くなってきたんじゃないか?」
「もう少しですね……あ、解毒薬、無くなっちゃいました」
アンリさんが最後の解毒薬の空瓶を手で振る。これで打ち止めかぁ……
「じゃあ、二人が追加の解毒薬を持ってくるのを待とうか」
「ですねぇ」
俺達はリラックスしながら泉を見つめる。
「色々ありましたね」
「そうだな……この世界に来て、井戸水に毒が入ってたり、ゾンビモンスターに襲われたり――」
「いえ、――それもそうなのですが、出会ってから色々あったなぁと」
「ああ、そういうこと」
アンリさんは俺と出会ってからの事――アンリさんの世界やホームエリア、ダンジョン探索での事――も含めて、『色々あった』と感慨にふけっているのだ。
「そうだな……結構昔からアンリさんと一緒にいる気がするよ。密度の高い毎日だな」
「私もです」
俺とアンリさんは二人で笑う。――そう言えば、二人で落ち着いて話す機会ってあんま無かった気がするな。
「――アンリさんは、本当によかったのか?」
「はい?」
俺は気になっていたことを聞いてみることにする。
「ユイも言ってたけど、アンリさんなら、すぐに異世界転生させてもらえただろ? 俺に付き合ってくれなくてもよかったんだぞ?」
俺の事情に巻き込んでしまってて申し訳なさを感じてるのだ。だがアンリさんは――
「ユウスケさんといると楽しいので。――結構大変なことも多いけど、好きでこうしてるので気にしないで下さい」
「そっか……ありがとな」
「いえいえ、こちらこそです」
アンリさんが一緒にいてくれて、以前の様な寂しさは無くなった。一人はやっぱり寂しいんだ……。自分のことを近くで見てくれている人がいるだけで、こんなにも満たされる。
「ユウスケさん、私――」
「待たせたな! 解毒薬持ってきたぜ!」
アンリさんが何かを言い掛けたと同時、大部屋の入口から、カイリさんとハンナさんが入ってきた。
「ん? ――あ、すまん。もしかしてお邪魔だったか?」
カイリさんが俺達を見て何かを察した様で謝ってくる。アンリさんは小さくため息をついてから立ち上がり――
「いえ、取って来てもらってありがとうございます。もう少しなのでやっちゃいましょうか」
カイリさんから解毒薬を受け取り、泉に投入を再開した。
◆
「おお! これならもう大丈夫だろ!」
カイリさんの言う通り、泉は紫から、元の色だったのだろう透明に戻っていた。念のため、泉の水を桶に掬い、アイテムとして説明欄を確認してみる。
<水>
「もう大丈夫みたいです。毒は無くなってますよ」
「やったわね! ――これで毒問題が解決するといいんだけど」
「やれることはやりましたし、村の人達と合流して村に帰りましょうか」
俺達は洞窟の入口に向かい歩き出す。俺の横にアンリさんが並んだ。
「――ユウスケさん、これからもよろしくお願いしますね?」
「? ああ、こちらこそだよ!」
――俺とアンリさんは互いに笑い合い、目の前の道を一緒に歩み進むのだった。




