第77話 ファティリタス復興編 【第1クール】 モンスター討伐依頼
――宿屋玄関――
「おはよう」
「おはよー」
俺達は朝起きて宿屋玄関に集合する。宿泊費50Gには朝食代も含まれていたので、皆で食堂に行って朝食をとる。
「今日はどうしようか?」
「早く自分達の担当エリアに行かないとですね」
「でもGが尽きそうだしな……」
ヘンリー、アリア、ジョセフがどうしようかとうなっている。
「じゃあ、午前中だけ、ギルドで簡単そうなモンスターの討伐依頼をこなして、午後は自分達の担当エリアに向かう様にしないか?」
俺がそう提案すると、皆が「そうしよう」とうなずいてくれた。
◆
――ギルド受付――
「お、さっそく来たのね、新人君達。今日はどうするの?」
俺達は昨日知り合った受付嬢のシエラさんに今日の目的を伝える。
「短時間で済む簡単なモンスターの討伐依頼は無いですか?」
俺は皆を代表してシエラさんにオススメを聞く。
「これなんかどうかしら?」
<ラージアント10体の討伐 300G>
「う~ん、人数が多くて。もう少しGの多いものはないでしょうか?」
300Gだとみんなで分け合うと全然だもんな。
「モンスターの素材を売却すれば、その倍くらいにはなるわよ? これよりGが高いやつだと、もうちょっと慣れてからの方がいいわね」
俺は皆を見まわす。
「どうだろう?」
「初めてですし、まずはこれくらいでいいんじゃないですか?」
アンリさんが賛成してくれた。
「俺達もいいよ。食料はまだ余裕あるし、300Gも6人で割れば宿代の50Gにはなるしね。素材を売ればもっと稼げるみたいだし」
ジョセフが3校を代表してOKをくれた。エマ、アリア、ヘンリーもうなずいている。
「じゃあ、これでお願いします」
「はいは~い♪ 気を付けて行ってらっしゃいな」
◆
――中央都市南の草原――
「あ、そう言えば、俺達って協力してクエストを受けていいのかな?」
ふと、各校でRPを競う様に言われていたことを思い出す。
「大丈夫、です。さっき、オリビア先生に確認を取りました」
アリアが既に聞いてくれてたみたいだ。しっかりしてるな。
「ありがとう、助かるよ」
「い、いえ……」
俺が礼を言うと、エマの陰に隠れてしまう。恥ずかしがり屋なのかもな。
「ユウスケ君。うちのアリアに手を出しちゃダメよ?」
茶化したようにエマが言い、皆で笑い合う。
――なぜか悪寒で背筋が寒くなるが、きっと気のせいだろう。
「そういえば、装備はどこにあるんだ?」
ヘンリーが言う。確かに、誰も武器を装備してないな。
「<アイテム欄>を見てみるか」
「あ、あったあった。装備できるみたいよ」
「<装備欄>でも選択できるみたいだな」
俺やエマ、ジョセフが確認し、皆、各々持っているものを装備してみる。
俺やジョセフは剣を、エマは杖を装備してるな。
「みんなは<ロール>、何ですか?」
「俺は<アタッカー>だな」
「わ、私は<ヒーラー>」
アンリさんの問いかけに、ヘンリーとアリアが答える。
初期ロールと初期装備が各々に与えられているようだ。
――俺達の初期状態はこうだった。
<タンク>……盾役。敵の注意を引き付ける。
ユウスケ、ジョセフ
メイン装備:剣
サブ装備 ;盾
<ヒーラー>……回復薬。味方の傷を癒す。
アンリ、アリア
メイン装備:杖
<アタッカー>……攻撃役。高火力で速やかに敵を倒す。
エマ、ヘンリー
メイン装備:杖<エマ>、槍<ヘンリー>
「なるほどな……やっぱ俺ら二人じゃ無理じゃね? アタッカーいないじゃん」
「今だけでもうちからそっちに一人出すか?」
「それもオリビアさんに聞いたんだけど、ダメだって。RPの取得が各校のパーティ毎だからみたい」
ジョセフが提案してくれたが、やっぱりRP取得ルールの関係で、生徒のパーティ編成はいじれないみたいだ。俺達は、現地の住人にパーティ加入してもらうしかなさそう。
「気を使ってくれてありがとな。今回のモンスターは、それほど強敵でもないみたいだし、今回のところは二人でやってみるよ」
「なら、こっちが数多めに持つから、そっちは無理せずやってくれ」
ジョセフの提案に、エマ、アリア、ヘンリーも笑顔でうなずく。
――みんな、本当にいい奴らだな。この出会いに感謝しないと。
「お言葉に甘えて、無理ない範囲でやってみようか」
「はい! 頑張りましょう!」
アンリさんもやる気だ。いっちょ頑張りますか!
◆
しばらく草原を散策すると、
「いたぞ」
ジョセフの知らせで皆がその方向に注意を向ける。
<ラージアント>と頭の上にテキスト表示された大きな蟻が3体いた。
「俺達が2体受け持つ。そっちは1体頼むな」
「わかった」
「はい!」
ジョセフの指示通り、俺とアンリさんが1体を受け持つことに。
こちらが近づくと、ようやく向こうもこちらに気づいたようだ。
「キィ!」
ラージアントが俺の方に走ってきて体当たりをかまされるが、左手に持つ盾で受け止める。
「せいっ!」
右手に持つ剣で斬りつける。レベルが1で初期ステータスだからか、あまり効いていないようだ。そうこうしてるうちに、盾をくぐられてラージアントの体当たりをまともに食らう。
「ごふっ!」
思ったより痛い。視界右端に見える俺のHPゲージが2割程減る。なお、レベルやロール、HPやTP、CP、経験値バーは、メニュー操作を授けられた時から初期設定として表示されていた。親切設計だな。
「ユウスケさん! <ヒール>!」
「サンキュー!」
アンリさんの杖から回復魔法が飛んできて、俺の傷を癒す。俺のHPが満タンになった。
そうこうしているうちに、ラージアントを倒し終えた。取得した経験値のテキストがポップアップする。
経験値 +2
なお、ダンジョン攻略の時とは異なり、Gの取得表示は無かった。その代わりモンスターは消滅せず、死体がそこに残る。モンスターのテキスト表示は消えていた。倒すと消えるんだな。
死体に近づくとボタンが現れ、<しまう>が選択できるようになったのでストレージに収納する。食料の時と同様、ラージアントの死体がふっと消え去った。
あらためてアイテム欄で確認すると、<ラージアントのアゴ>が収納されていたので、"取り出し"てみる。すると、死体ではなく、素材――アゴ――の状態で手元に現れた。
「死体を解体しなくても収納すれば自動的に素材化してくれるのは助かるな」
「そうですね。捌かなくていいのは助かります」
アンリさんもホッとしているようだ。
俺は<ラージアントのアゴ>を再びストレージに収納する。アイテム欄を確認したアンリさんが言う。
「アイテム欄の素材はユウスケさんと私、共通みたいです。装備は別々みたいですが。もしかしたら、パーティ共通の素材収納場所なのかもしれませんね」
「そうなのか。便利でいいけど、現地住人をパーティに入れた時はどうなるか、一応注意しておこうか」
信用できる人をパーティに誘うつもりだが、アイテムの持ち逃げみたいなことがシステム上可能だったら、念のため対策しておいた方がいいかもな。
現地住人はメニュー操作自体ができないとは思うが、パーティ加入時はできるようになるとかあるかもしれないし。
「お~い! そっちも終わったか~?」
ジョセフ達も終わったようだ。俺はアンリさんと皆の元に向かった。
◆
「これで10体だな」
少し息を切らしてはいるが、俺達は特に問題なく討伐を終えた。
ちなみに経験値だが、これはパーティ人数で割った値がそれぞれに付与されていた。
例えばラージアントの場合。ベースとなる経験値は4だが、俺とアンリさんの2人で倒すとそれぞれに経験値2が、ジョセフ達4人で倒すとそれぞれに経験値1が付与されていたのだ。
つまり、パーティ人数が増えれば戦闘が楽にはなるが、取得経験値は減るので好し悪しといった感じだな。
「そう言えば、討伐数はどうやってチェックしてるんだろうな」
「素材アイテムの数とか?」
お互いが取得した素材アイテムの数を合算すると、10個以上あるようだが……<アゴ>以外にも<足>とか<腹部>とかもあったからな。
「まぁいいか。シエラさんのところで聞いてみよう」
俺達はギルドに戻った。
◆
――ギルド受付――
「早いですね。もう終わったんですか?」
「はい、ラージアント10体の討伐を終えました。――それで、どうやって討伐数を証明すればいいのでしょう? 獲得した素材は持ってますが」
「獲得した素材をいくつか見せてくださればいいですよ」
「え? いくつかでいいんですか?」
「中には討伐したけど素材にすることの難しい状況というのもありますからね。数については信用商売でやらせてもらってます。まぁ、あまりに怪しい感じだったら追及させてもらうこともありますが」
俺達は取得した素材をいくつか取り出してシエルさんに見せる。
「はい、確かに。それでは、これが報酬です。どうぞ!」
「ありがとうございます」
俺達は300Gを入手した。今はしまわずに現金で持っておく。
「ちなみに、素材の換金も承ってますが、どうします?」
「お願いします」
俺達は素材をすべて収納から取り出してシエラさんに渡す。
「お、おお! かなりの数ですね。それに状態もいいです。さすがは異世界人様ですね」
シエラさんが金額を査定してくれる。
「こんなものでどうでしょう?」
<450G>
おお! 思ってたよりも多いな。一応、皆を見まわし異論がないのを確認し、
「はい、それでおねがいします!」
その金額で換金してもらった。
◆
――ギルドの片隅――
「合計で750Gか。6で割ると……」
「割り切れない分はそっちでもらってくれ」
「いいのか?」
「そっちの方が討伐数だって多かったしさ」
ジョセフ達が7、俺達が3だった。
「そうか。じゃあ、そうさせてもらうな」
俺とアンリさんで240G、ジョセフ達が510G受け取った。
◆
――ギルド外――
「じゃあ、そろそろお互いの担当エリアに向かおうか」
「そうだな。色々と助かったよ。また何かあったらよろしくな」
「こちらこそね。ユウスケ、アンリ、またね!」
「またね」
「またな!」
3校のメンバーともずいぶん打ち解けたな。エマもいつの間にか俺達を呼び捨てにしてくれてるし、いい関係を築けてよかった。
「3校は西、俺達1校は南だな。隣り合ってるし、きっと縁もあるだろう。じゃあな!」
「おう!」
――俺とアンリさんは3校のメンバーに手を振り別れると、俺達の担当エリアに面する南門へと足を運んだ。




