第75話 ファティリタス復興編 【第1クール】 いざ、ファティリタスに
――ファティリタス――
ゲートを抜けて出た先はどこかの施設だった。周りを見ると、足元に大きな魔法陣が描かれている。建物の造りは、どこか神殿の聖堂っぽいな。
――ああ、ここが例の<神殿>かな? パーティが全滅した時、俺達生徒はここで復活するんだったよな。
先に来てる他校の生徒もいるな。現地の出迎えっぽい人に連れられて奥に向かっている。
「異世界人様ですな? ささ、こちらにどうぞ」
「あ、はい。わかりました」
俺達にも声がかけられた。アンリさんと二人で案内についていく。
◆
――食料保管庫――
「ここに、いくらかですが、異世界人様のために食料を保管してあります。お持ちくだされ」
「ありがとうございます」
保管庫内には、第1校~第4校それぞれにブースで分けられ、食料が保管されていた。俺達は自分達の<第1校>のブースに入った。
「大体、一週間分というところでしょうか?」
「そうだな。でもこれ、持ち運ぶのも荷物になるな」
俺とアンリさんは食料を手に持ってみる。
「あ、ユウスケさん。前のダンジョンの時と同じように、食料の近くにもボタンがありますよ」
「ほんとだ。押すと、<しまう>が選択できるな」
とりあえず<しまう>を押してみる。すると、食料が手元からふっと消えた。メニューからアイテム欄を開くと、今しまった食料の見た目のアイコンで、食料名が表示されていた。今度はそれを選択し、<取り出す>を押してみる。――すると、食料がまた手元に戻った。
――要するに、アイテムの収納空間である<ストレージ>を使って出し入れができるってことだな。
「これは便利だな。いくらでも持ち運べそうだ」
「食料に困ってる人の支援も簡単にできますね」
アンリさんの言う通りだ。俺達は、人間と魔族の長い戦いで荒廃した世界の復興に来ている。事前ミーティングで見せてもらった映像の中には、飢餓で困る人々の姿もあった。
このストレージをうまく活用すれば、飢えてる人達を多く救うことができるだろう。
「そうだな。まずは食料の確保を優先してもいいかもしれない」
俺達はすべての食料の回収を終えると、案内に従い、神殿の奥へと向かった。
◆
――神殿内大部屋――
連れられてきた大部屋には巨大な円形テーブルが中央に据えられ、テーブルを囲う様に、いくつも椅子がしつらえられていた。俺とアンリさんは空いてる席に座る。
やがて、後から来た他校の生徒も席につくと、質の良さそうな服を着た人が部屋に入ってきて挨拶する。
「異世界人様方、よくぞいらっしゃいました。私はこの神殿で<司教>を拝命しております、名をモーロと申します。まずはこの世界の復興にいらした皆様方に深い感謝を」
司教がそう言うと、俺達を案内してくれた人共々頭を下げる。
「そういうのはいいから。早く担当エリアに向かいたいんだよね」
第4校の生徒だっただろうか。その生徒が主張する。――失礼な奴だな。
「ではこれをお持ちください」
司教がそう言うと、案内をしてくれた人達が、俺達や他校の生徒の席に巻物のようなものを持ってくる。
「これは、この世界の地図でございます。皆様方の担当エリアも区分けして表示しておりますので、ご確認ください」
地図はおおざっぱなものだったが、大まかなロケーションは把握できるようになっていた。それに司教の言う通り、俺達の担当エリア区分が分かりやすく記載されていた。
「ずいぶんおおざっぱだな。まぁいいや。用はそれだけかな?」
先程の第4校の生徒だ。無駄に態度でかいな……ちょっとイラッとする。
「わざわざ僕達のために用意してくれてるんだ。文句を言うなら受け取るなよ」
第3校の生徒だったかな。ついに4校生徒の態度を見かねて苦言を呈した。
「ふん……ただ、出来が悪いからそう言っただけじゃないか」
そう悪態をつきつつも、一旦は静かになった。
「この世界の施設の利用などでお困りの際は私共にご相談ください。お役に立てると思いますので。それでは、皆様方。あまり長くお引き止めするのも申し訳ないので、後は何かあれば声をかけてください」
司教がそう締めくくると、案内に従い俺達は出口へと向かっていった。
◆
――神殿入口――
「では皆様方。どうぞよろしくお願いいたします」
案内の人は頭を下げ、去っていこうとする。――あ、ちょっと待って。
「あ、すみません。この世界でお金を稼ぐにはどうすればいいでしょう?」
「そうですね……ギルドの依頼にあるモンスターを討伐したり、その素材を売るのがいいでしょう。また、生活物品などを売ることでも収入を得ることができますよ」
なるほど。大体予想通りだな。
「モンスター素材や生活物品などの売却は商人を通じてですか?」
「モンスター素材はギルドでも引き取ってくれますよ。商人は、あそこに見えます商店街にもおりますし、各地にも行商人がおりますので、いずれかの者とお取り引き頂けばよいかと」
なるほどなるほど。
「ありがとうございます。助かりました」
「いえいえ、また何かあれば聞いてください」
案内人は笑顔で神殿へと戻って行った。
「ユウスケさん、用心深いですね」
「忘れた?アンリさん。俺、君と会った時、無一文だったんだよ?」
そうでした、とアンリさんと一緒に笑う。
「長期で異世界に留まったのはあの時が初めてでね。お金のことが頭からすっかり抜けてたんだ」
「でもそのおかげで私とユウスケさんの縁ができましたし、何がどう転ぶかわからないですね」
そうだねと笑い合いつつ、周りに目を向ける。
どうやら、俺達が案内人と話してる間に、他校の生徒は去って行った様だ。
――いや、1グループだけ残っていた。こちらに向かってくる。
「僕はジョセフ。第3校だよ。第1校のユウスケ君とアンリさんだよね。よろしく」
先程、悪態をついた4校の生徒に注意した生徒だった。ジョセフから差し出された手を、俺達は握手で返した。
「ああ、こちらこそよろしく」
「よろしくお願いしますね」
「私はエマ、よろしくね!」
「ア、アリアです。ろしくお願いします……」
「ヘンリーです、よろしく」
他の3人とも自己紹介を済ませ、握手を交わした。――みんな感じのいい人達でよかった。
「よかったら一緒にこの都市を少し見て回らないかい?」
「そうだな。行こうか」
「はい!」
――そうして、俺達のファティリタスでの生活が始まった。




