第56話 ダンジョン攻略【8】目の前の仲間が急に落とし穴に落ちたら、あなたはどうしますか?
「ユウスケさん、ユウスケさん!」
アンリさんが嬉しそうに話しかけてくる。
「ついに<沈黙耐性>がレベル3になり、完全耐性になりましたよ!」
「おお~、おめでとう!」
俺は、ドヤ顔のアンリさんを拍手で褒め称える。
「これでもう怖いものはないですよ!」
アンリさん、それ、フラグ! でもまぁいいか。嬉しそうなアンリさんを見ると、俺も嬉しい。
「もうこのフロアに敵はいないし、次の階段を見つけて先に進もうか」
俺達はそれから間もなく下への階段を見つけ、次のフロアへと向かった。
◆
――地下3F――
地下2Fに引き続き、暗いエリアだった。俺のスキル、<フロアライト>で周囲を照らす。明かりに照らされて、横壁や天井に埋まった鉱石の結晶が、色取り取りの輝きを放っている。
――それはとても綺麗で、幻想的な光景だった。
「わぁ……」
アンリさんがその光景に見惚れて周囲を見回している。俺はそんなアンリさんに見惚れている。俺達は綺麗な光景を満喫しながら歩を進めた。
ふいにどこからか「カチッ」と音が鳴り、アンリさんの姿が掻き消えた。
「ん?」
ガラガラガラガラ…………きゃぁ~っ……
「アンリさぁぁぁんっ!?」
落とし穴だった。地面が崩落し、アンリさんが落ちて行った。やがて下の方から聞こえてくる衝撃音。
急いで視界の右端にあるアンリさんのステータスを見ると、HPバーが2割程度。そして今現在も徐々に減っている。
――あかん。これはあかん!
混乱しながらも同じ穴から飛び降りる。
「…………うぉぉぉっ……!」
そして足に襲ってくる落下の衝撃。――ま、マジで痛てぇ……
そして気になることがもう一つ。
「――毒沼?」
落下時、着水したのだ。浅い水に。で、なんか身体の調子が悪い……周囲を見ると、水は緑だった。
ふらふらする頭でアンリさんを探すと――いた。うつぶせに毒沼に突っ伏している。ステータスを見ると、「しに」。俺は絶望し、間もなく同じ運命を辿る。
◆
「あ、おかえり~」
そこは見慣れたホームポイントだった。ユイが椅子に座りながらお煎餅をぽりぽりしつつ声をかけてくる。慌てて周囲を見ると、近くのソファーでアンリさんが額に濡れタオルを乗せ、横になっていた。
アンリさんは、俺に気づいたようで身体を起こす。
「すみません、私の不注意で……」
「仕方無いよ。というかごめん。落とし穴とかはダンジョンの定番トラップなのに、注意するよう言ってなかった」
「い、いえいえ。悪いのは私なので……」
俺達は「悪いのは自分で」と譲らない。
「見事に引っかかってくれたわね。頑張って作った甲斐があったってもんよ」
ニシシという感じで、いたずらっ子の笑みを浮かべてユイが胸を張る。
……
「お前かぁ!!」
「ちょ、ちょっと! ガチギレ禁止!! 私はダンジョンの怖さを教えてあげただけよ!」
そう言ってユイはそっぽを向く。……ああ、もう。あそこまではいい感じだったのに。
◆
「で、どうする? すぐ戻るの?」
「う~ん、アンリさんはどう?」
「ヒトカゲちゃんを置いてきちゃいましたしね」
あ、すっかり忘れてたわ。
「戻ったらまた地下1Fから?」
「ワープポイントを設定してあるから、地下3Fの入口からでいいわよ?」
「ヒトカゲも心細い思いをしてるだろうし、戻るか」
アンリさんがうなずく。
「ねぇユウスケ、あんた何でモンスターを仲間にしてるの?」
ユイからだ。
「それはこっちのセリフだ。何で俺を<モンスターテイマー>なんてのにしたんだよ」
そう、ずっと文句を言いたかったのだ。
しかし、ユイはきょとんとする。
「え? 私、知らないわよ? あんたを送るとき、<戦士>に設定したはずだけど」
「は? でも実際に俺は――」
話が嚙み合わず、俺とユイは顔を見合わせる。
【天の声】私の独断で恩恵を授けました。(ドヤァ!)
「お前かぁ!!!」
俺は思わず中空に叫ぶ。
「ちょ、ちょっとアンリ! ユウスケが壊れたわ!」
「元からです!」
どことなく失礼な会話が聞こえてきた気がするが――
「ゆ、ユウスケ。やっぱりちょっと休んでく?」
「そうですね。実は私もちょっと休憩したかったんです」
――二人の気遣いにより、俺は少しの間ゆっくりさせてもらうのだった。




