第46話 今までに行った世界って何?
「ご褒美の件も済んだし、これからのことについて話しましょうか」
ゴーレムやビーきち達が帰った後、ユイがそう切り出す。またどこからか、机や椅子、教壇を取り出し、さながら学校の教室みたいだ。生徒は俺とアンリさんの二人しかいないけどね。教壇の近くには、大きなスクリーンが宙に浮いている。
「そうだ、聞いておきたいことがあったんだ」
俺が挙手してそう申し出ると、ユイがうなずき、先をうながす。
「今までに俺が行った世界ってなんなんだ?……聞き方がよくないか。今までに色々な世界に行ったけど、あれらは現実に存在する世界なんだよな?でも、俺が元いた世界に近いところにも何度も行ったし、因果率の歪みだっけか?俺が戻っても、それは問題ないのか?」
そう、つじつまが合わなくないか?「いい質問ね」とユイがうなずく。
「近いうちに話そうと思ってたけど、いい機会だから話しておくわね」
ドリンクを一口飲み、ユイが語り始める。
「ユウスケが今まで行った世界は、あんたから見て、異世界、もしくは、私が造り出した仮想世界よ」
「仮想世界?バーチャルってことか?」
「う~ん……似て非なるものかしらね。実体はあるし、脳や五感への直接刺激で錯覚を生んでるわけじゃないのよ」
よくわからないな。
「実体での経験を現実とするなら、あそこはまさしく現実よ。斬られたら血が出て死ぬし。前に銃で撃ち殺されたことがあると思うけど、何事もなかったかのように身体が元通りになったのは、ここをホームポイントにして復活させてるからに過ぎないのよ」
なるほど?
「無料体験でゴキブリになったのは?」
「あれは魂をゴキブリのオブジェクトに込めたのよ。一時的にだけど魂を肉体から引き剥がしてね」
サラッと怖いこと言ってますよ、この人。
「異世界転生なんてそんなもんよ。身体は捨てていくんだから」
なんか怖くなってきた。
「じゃあ、他の登場人物は?」
「外見や記憶、人格を他からコピーしたり、アレンジして造ってるわ」
ふむふむ。――ふと、さっきからアンリさんが黙りこくっていることに気づく。アンリさんは意を決したように顔を上げ、
「わ、私も、造られた存在なんでしょうか?」
緊張した面持ちで、アンリさんがユイに問いかける。――しまった。興味本意に聞いてばかりで、無神経だった……
「あなたは異世界の方よ。私が造った仮想世界ではないわ」
言われたアンリさんが首をかしげる。
「最初に、ユウスケが行った世界は、異世界、もしくは、仮想世界って言ったと思うけど、異世界はそこにもともとあるもので、私が造ったものじゃないのよ」
アンリさんがほっと胸を撫で下ろす。
「話を聞いてて不安だったので、安心しました……。それにしても、ユイさんってスゴいんですね。仮想世界を造るとか……もしかして、神様なんですか?」
アンリさんに言われ、ユイがキョトンとする。そして思わずと言うように、ぷっと吹き出し、笑い出す。
「――あははははっ!」
「も、もう。笑わなくてもいいじゃないですかぁ!」
アンリさんが顔を真っ赤にして抗議する。可愛いなぁ。
「いやぁ、ごめんごめん。まさか神様扱いされるとは思わなかったから。違うわよ?やり方さえ覚えれば、あなたにもできるわ」
「俺にも?」
「できるわよ。あくまで仮想世界を造るだけで、現実に干渉する訳じゃないからね」
そうなんだ。今度教えてもらおうかな。
「まぁ、無理して今理解しなくてもいいわ。私が造った仮想世界であろうと、現実の世界と同じように真剣に取り組んでくれればいいのよ」
「わかった」
「はい」
気になってたことを聞けてよかった。――そうだ! ついでに、もう1個気になってたことを聞いてみよう。
「そういえばさ、ビーきちがいる時に聞こえる、どこかからの声、いったい何なんだろうな」
「は?」
「声?ですか?」
ユイとアンリさんが顔を見合わせ、疑問の声を上げる。
「え?誰かわからないけど、話しかけてくるのがいるじゃん。女の人の声でさ。なんか、ナレーションみたいな口調で」
「「……」」
なんだろう……。二人から<少し可哀想な人を見る感じの労りの視線>を感じる。
「ユウスケ、あなた疲れてるのよ。このところ、ずっと頑張ってたものね」
「私、今度マッサージしてあげますね! 得意なんですから!」
「え? え? 何? 二人には聞こえてないの?」
何それ怖い。俺にだけしか聞こえてないの!?
「今度みんなで美味しいものでも食べましょう♪」
――俺、疲れてるのかな……?




