第44話 ご褒美はどれにする?
「……」
異世界につながる大扉が開き、ビーきちが現れる。周囲を見渡すと俺を見つけ、嬉しそうに飛び込んできた。
「ははは!元気だったか?」
「……♪」
俺はビーきちを受け止め、頭をなでる。ビーきちはとても嬉しそうだ。ふと違和感を感じ周りを見ると、先程まで俺の近くにいたアンリさんがずいぶんと距離を取っている。
「げ、元気な子ですね」
笑顔だが、どことなく青ざめている。蜂って聞いた時、ちょっと引いてたしな。苦手なんだろう。まぁ、俺も最初は拒絶してたしな。慣れてもらうには時間が要るだろう。
「はいはい! 再会を喜ぶのもいいけど、さっそく始めるわよ!」
ユイが手を叩き場を整える。そう、ビーきちにここにきてもらったのには理由がある。ステータスカードのポイントが30ポイントたまったので、約束のご褒美がもらえるのだ!
ご褒美は3つの中から一つを選ぶが、その中の一つにビーきちの同意が必要となる。
空中のスクリーンにはご褒美候補の内容がこう書かれている。
①メ〇ミ
某有名国産RPGの単体炎系中級魔法
⇒転生先の世界に無い場合は近いものに
②スキル『錬金術』
⇒①同様、転生先の世界に無い場合は近いものに
③異世界転生の時、『ビーきち』を一緒に転生
※ビーきちの同意が必要
⇒転生先の世界でペット枠に
この③にビーきちの同意が必要となるため、確認をしたく、ここに来てもらったというわけだ。
「で、どう? あんたはこいつが異世界に転生する時、自分も異世界に転生することを受け入れる?今の世界での生活を捨て、別の生き物として転生することになるけど」
ユイが俺を指さしながらビーきちに問いかける。俺とビーきちは魂レベルで繋がってるから(?)意思の疎通はできるけど、ユイの言葉は伝わっているのだろうか?
ビーきちは数瞬フリーズした後、人間のようにうなずいた。
――おお! 通じている? って言うか、そんなに簡単に決めちゃっていいの……?
「そう。じゃあ、あんたの転生も候補にするわね。せっかく来てもらったし、今ここでどれにするか決めちゃいましょうか」
そう言ってユイはコンソールを操作する。
操作が済むと、空間に変化が生じる。およそ7mの等間隔に①、②、③のプラカードを持った人型のゴーレムが現れ、それぞれの前に、別の人型ゴーレムが一体ずつ配置される。
と思ったら、③のところだけ、ビーきちだ。いつの間にか俺のところから移動させられていた。戸惑ってまわりをキョロキョロと見回してるな。
「じゃ、それぞれ、アピールをどうぞ! ①、②、③の順番でね♪」
出た! ユイの無茶振りだ! 色々説明が足りてないぞ。
①のところにいるゴーレムが動き出す。ローブを着て杖を持っており、魔法使いっぽい。
ビーきちが離れたからか、アンリさんがまた俺に近づいて来てくれていたが、興味深そうにゴーレムを見ている。魔法関係だし、特に興味があるのかもね。
ゴーレムと、①のプラカードを持った別のゴーレム(以下、①プラゴーレム)が5m程の距離を開けて対峙する。
「メ〇ミッ!」
ゴーレムは呪文のような何かをつぶやき、締めに呪文名をさけんだ。
ゴーレムの持つ杖の先から直径50cm程の炎の玉が飛び出し、①プラゴーレムに向かって飛んでいく。炎の玉が①プラゴーレムに着弾すると激しく燃え盛り、漫画みたいにプスプスと煙を上げながら①プラゴーレムが倒れ伏した。
プロ意識が強いのか、プラカードに被害が及ばないよう頭上にかかげて避難させていた。その努力の甲斐あってか、プラカードは少ししか焼けていない。……焼けてんじゃん、相変わらず雑いなぁ。
メ〇ミを放ったゴーレムは、たった今自分が燃やした①プラゴーレムにテクテクと近づいていき、プラカードを取り上げ、頭上に勢いよくかかげる。
――どことなくそのポーズが仮面ラ〇ダーの変身時ポーズっぽい。なんで無駄に凝ってんだよ! ……アンリさんが大喜びしながら拍手をしている。――いいのか? これで。
「では次! エントリーナンバー②どうぞ!」
中央の②のゴーレムが動き出す。このゴーレムは女性型だな。可愛らしい衣装を着ている。パッと見は人間の女性と見間違えるだろう。
――ん?いつの間にか、テーブルが置かれており、素材らしきものが上に置かれている。抜け目無いな……。テーブルの横にはなぜか樽がおかれており、ゴーレムはふと樽の前で立ち止まると、指さし――
「た~るっ!♪」
腰に手を当てながら上半身をかがめて樽を指さし、とあるゲームの主人公の様なふるまいをする。……これ、元ネタを知らなきゃ伝わらないだろう。
アンリさんを見ると、やはり困惑顔だ。どことなくゴーレムも気まずそうだ。「コホン」と咳払いし、テーブルへと向かう。
テーブルについたゴーレムはハッとしたような顔になり、ユイの方に慌てて振り向く。ユイも何かを察したのか、慌ててコンソールを操作し何かをテーブルの前に出現させる。
あぁ、錬金窯とかき混ぜ棒ね。温度調整用か、窯は板状のヒーターの上に置かれているようだ。ゴーレムはユイに軽く頭を下げた後、テーブルの上からいくつか素材を選んで抱え、錬金窯の前に移動する。
ゴーレムの手元から錬金窯に素材が放り込まれる。まとめて全部だ。ドボドボと音が聞こえてくる。そしてヒーターの温度を調整しながら、鼻歌交じりにかき混ぜる。
「きゃあっ!」
――ボンッ!
アンリさんの悲鳴と共に、錬金窯が爆発する。
「ふぇぇ~んっ!」
女性型ゴーレムが煤まみれになり、女の子座りをしながら泣き真似をする。――いちいち凝ってるな!
数瞬後、女性型ゴーレムは何事もなかったようにテーブルから新しい素材を持ってきて、窯に素材を放り込んでいく。今度は先程とは異なり、かなり慎重だ。
かき混ぜ続けるとやがて窯から虹色の光が立ち上がり、完成品が空中に浮かび上がってきた。――おお、すごい!
女性型ゴーレムはそれを手に取り片手で頭上にかかげ、嬉しそうに腰に手を当ててポージング!
――やっぱり決めポーズは外さないのね。
そして不意に、①のプラカードを持ったメ〇ミゴーレムにソレを投げつける。――ちょ!
メ〇ミゴーレムも完璧に不意を突かれたのか、気づいた時にはソレが着弾していた。――そして悲鳴と共に、先程のメ〇ミ程度の爆発が生じる。
女性型ゴーレムと、いつの間にか近づいてきていたユイがハイタッチをして喜び合い、理不尽に爆発物をぶつけられたメ〇ミゴーレムがプルプルと震えながら起き上がった。
「ギン!」という擬音が聞こえそうな勢いでメ〇ミゴーレムの目が赤く輝き、プラカードを振り回しながら女性型ゴーレムとユイを追いかけ始めた。女性型ゴーレムとユイはキャッキャと逃げ回る。――平和だなぁ……。
やがて騒動が落ち着き、それぞれが元の位置に戻る。
女性型ゴーレムは、②のプラカードを持ったゴーレムからプラカードを取り上げ、中央に移動してきて最後にアイドル風ポージング!
足を肩幅に開き片手は腰にあてて、別の手は目元で横ピースしてるな、うん。ウィンクも忘れない!
だけど、ポーズ以前に色々残念すぎてちょっとな……。何かを感じ横を見ると、アンリさんが真似したくなったのか同じポーズを取っている。――これは可愛いくていいね!
「最後は③番! 大取り、期待してますよ!」
ユイからまたの無茶振りが。俺も経験したことがあるが、あの時は急にお笑いのステージに立たされて、一発芸を要求されたんだよな……悪夢だ(第3話参照)。
「……(泣)」
ビーきちから泣きそうな顔が俺に向けられ、助けを求められる。気まずくなり、顔をそらす。
「ガーン」という擬音が聞こえてきそうだが、許せ、俺には無理だ! ……ただまぁ、ユイに少しは物申しておくか。
「おいおい、急に一発芸やれって言っても準備してなかったら難しいだろ」
「……♪」
ビーきちから歓喜の念が向けられてくるのを感じる。
「それもそうね。じゃあ、芸じゃなくて戦闘にしましょうか。――あのゴーレムに一撃を入れてみて」
ユイは③のプラカードを持ったゴーレム(以下、③プラゴーレム)を指差す。③プラゴーレムが移動してきて、ビーきちと5mくらいの距離で対峙した。
「――では、始め!」
ユイの合図を皮切りに、戦闘が開始された。戦闘と言っても、③プラゴーレムは防御しかしない。ビーきちの攻撃をプラカードで防いでいく。……プラカードが穴だらけになってるんだけど。
ビーきちは前に会った時よりも強くなっていた。高速移動で③プラゴーレムをかく乱し、お尻の針を射出していく。③プラゴーレムからは焦りが感じられる。
――そしてとうとうビーきちが③プラゴーレムの背後に回り込んで針を射出し足に突き刺した。
「あばばば……」
マヒ針がささり、③プラゴーレムは痙攣しながら倒れ伏した。そしてユイの呼んだ別のゴーレムが現れてプラカードを取り上げ、ポージング!
――なぜかドヤ顔で偉そうに仁王立ち(片手バージョン)だ。負けただろうに……。
「じゃあユウスケ! 欲しいご褒美のところにあるプラカードの前に行って!」
ユイが俺を指さしながらそう告げる。ついにこの時が来たか――。
……というか、ビーきちを呼んでおいて選ばなかったら、俺、最低じゃね? 他の選択肢、選べないじゃん!
――いやでも待て。落ち着け、俺!
アンリさんのいた世界で俺はたくさんの苦労をして、自分に足りないもの、欲しいものがわかったんだ。きちんと説明すれば、きっとビーきちだってわかってくれるだろう……か?
ああ、もう! めんどくさい!
――ビーきちだって、嫌々選ばれたくはないはずだ!(本当に?)ここは、自分の心に素直に――
――そして俺は、皆が見守る中、とあるプラカードの前に歩みを進めた。




