第43話 『とある宿屋の受付嬢』編の採点
「ではでは! 今回の採点、行くわよ!」
アンリさんの歓迎会の翌日、ユイの講義を受けるため、俺とアンリさんは例の空間に集合していた。
ちなみに、アンリさんの入塾に伴い、昨晩、俺とアンリさんに個室が用意された。結構な広さがあり、冷蔵庫や飲食類もそろっており、ベッドはふかふかですごく快適だった。アンリさんもかなりはしゃいでたな。
――ん? 俺が今までどうしてたかって?
いつもの空間で適当にソファーやマットの上で寝てたわ。あまり気にしてなかったけど、今思うと扱い悪かったよな……まぁ、それは置いておいて、今回の世界での採点だ。
ユイに言われ、俺はステータスカードを取り出して確認する。アンリさんも興味深そうに、俺の手元をのぞき込む。
【現在のステータス】
優しさ 7、勇気 8、面白さ or いいこと 8
計23
なんかかなり久しぶりだな。そう言えばこんなポイント評価があったな。ユイに言ったら怒られるから、忘れてたことは黙っておこう。
「これが今回の評価点よ!」
ステータスカードが光り、ポイントが加算される。
優しさ、勇気、面白さ or いいこと がそれぞれ5上がった!
⇒【加算後のステータス】
優しさ 12、勇気 13、面白さ or いいこと 13
計38
「お、おお~! めっちゃ上がった!!」
素直に驚いた!
「内容も十分よかったし、今回は長編だったからね。プラス加点してあるわ」
いいとこあるじゃん!
「あ、あのう」
アンリさんが何か聞きたそうだ。
「ん?」
「これって何をしてるんです?」
ああ、いきなりこの流れじゃぜんぜんわからないよな。
「ユウスケを異世界転生させるための修行みたいなものね。このポイントをためて、成長を記録してるのよ。異世界で活躍できるよう、3つの項目を設けてるの」
「そうなんですね」アンリさんは、ふむふむとうなずいている。
「そういや、アンリさんにもステータスカードを渡すのか?」
「いえ、もうアンリはいつ異世界転生させてもいいかなと思ってるから、特に持たせるつもりはないわ」
「……俺と扱いがだいぶ違いませんか?」
――拗ねるぞ? 拗ねちゃうぞ?
「あんたが拗ねてもぜんぜん可愛くないわよ。それはともかく、アンリは色々スペックが高いのよね……」
いったんドリンクで喉をうるおしてから、ユイが話を再開する。
「まず魔法のある世界出身なのは強みね。色々な異常現象を受け止めやすいし。アンリ自身の点で言っても、気立ては申し分ないし、こう見えて意外と心の芯も強くて、度胸もあるからね」
「そんな……私なんて全然ですよ」
アンリさんが赤くなって照れている。
――可愛いが……非常に可愛いが! むぅ……
「まぁまぁ、そんな不貞腐れないでよ。あんたにもいいとこはあるし、あとは経験を積めばいいのよ。今回だってきちんと成長を評価してあげたでしょう?」
そうだな。後ろ向きになっても仕方無いしな。
「うんうん、前向きに頑張りましょ」
「あ! 思い出したんだけどさ! ご褒美!」
うっかり忘れてるところだった。
「ん?」
ユイが首をかしげる。
「合計で30ポイントたまったらご褒美くれるって言ってたじゃん!」
ユイは一瞬フリーズした後、
「あ、ああ~!そうね、もちろん覚えてたわよ?」
冷や汗をかきながらユイが言う。嘘だ、絶対忘れてただろ!
「確か、ご褒美はこの中から選ばせてあげるって言ってたわね?」
ユイがコンソールを出しタイピングすると、空中にスクリーンが現れて文字が映し出される。アンリさんがほえ~って顔をしている。ハイテクでビビるよな。
スクリーンに映るご褒美の内容はこうだ。
①メ〇ミ
某有名国産RPGの単体炎系中級魔法
②スキル『錬金術』
③異世界転生の時、『ビーきち』を一緒に転生
※ビーきちの同意が必要
「この中から好きなのを選ぶといいわ!」
ユイが腰に手をあて、なぜかドヤ顔で言う。ふむふむ……どれにしようと思ってたんだっけ? 決めてた気もするけど、思い出せない。まぁいいや、今考えよう。
「質問いいか?」
ユイが頷く。
「メ〇ミって世界によっては、というか特定の世界にしか無いだろう。そういう場合はどうなるんだ?」
「そうね。メ〇ミって名前では無いかもね。その場合は、その世界で近いものになるわ。ファイヤーボールみたいな。魔法の無い世界だったらどうしようかしらね……まぁ、その時は炎由来の何かにしておくわ」
――いつもながら雑だなおい!
「錬金術も同じような感じ?」
「そうね。その世界に合わなかったら、近いものにするわ」
ふむふむ……
「じゃあ、最後のビーきちって、何に転生するんだ?」
「そこまでは考えてなかったわね。その世界のペット枠が妥当かしらね」
行き当たりばったりだなおい!
「あ、スクリーンにも書いてあるけど、ビーきちの同意は必要だからね?」
ユイが人差し指を立てて言う。
「あ、あのう」
アンリさんがおずおずと手をあげる。
「はい、アンリさん!」
ユイがアンリさんを指さし質問を促す。
「ビーきちって何ですか?」
「そう言えば、アンリさんは知らないか。ビーきちは、とある世界で俺が出会ったキラービー、蜂のモンスターで、俺の相棒だったんだよ」
俺は懐かしく思いながらもアンリさんに説明する。
「は、蜂ですか……?」
あ、もしかしてアンリさん、蜂とか虫が苦手なのかな?
「最初は俺も虫が苦手で、仲間になりたそうにしてるのを断ったんだけどさ。押し切られて(?)仲間にして、一緒に旅をするうちに仲良くなったんだよ。俺をかばって身を挺してモンスターの攻撃から守ってくれたりさ、いいやつなんだよ、本当に。負傷したビーきちの治療を医者に断られたり、住人から追い出された時は、魔王になることを決心したくらいだよ」
――あの時のことを思い出すと、今でも……
「またダークサイドに堕ちかけてるわよ。まったく……あの時も言ったけど仕方無いでしょ?モンスターは一般人にとっては襲ってくる敵でしかないんだから」
ユイがため息をつきながら言う。
「とても大事なんですね」
アンリさんがクスクスと楽しそうに笑う。少し気恥ずかしくなり、俺は頬をかく。
「転生にビーきちの同意が必要なら、聞いてくれないか?」
「いっそここに呼びましょうか」
「でも一度去ったら元の世界には戻れないんじゃなかったか?」
「極短時間だし、特に重要な場面でも無ければ因果律の歪みも小さいから、調整できるわ」
ユイはコンソールを操作し始めた。
――ユイが操作を終えるといつもの大扉が現れた。扉が開き、中から懐かしのビーきちが現れた!




