第42話 新入生歓迎会
「それでは」
グラスを手に持つユイが音頭を取る。
「新入生の入塾を祝して……乾杯ぁいっ!」
「乾杯ぁぁいっ!!」
「か、かんぱぁ~いっ」
俺達はグラスを突き合わせ、乾杯する。
酒の入ったグラスを俺とユイはゴキュゴキュと一気に飲み干す。そう、俺達は、アンリさんの入塾を祝して歓迎会をすることに。
ユイが適当にテーブルや座布団、食材や鍋をどこからか次々と取り出し、準備を終えて今まさに始まったところだ。
「いやぁ、それにしても、ユウスケ。あんた、どんだけトラブルに巻き込まれるのよ。経験のために、ちょっと村人の悩みを解決してきてもらうつもりが、まさかこんなシリアスな展開になるとは思わなかったわよ」
「うん、でもそのおかげでアンリさんとも出会えたしさ、悪くなかったよ」
うまいうまい、としゃぶしゃぶを頬張りながら、話題に花を咲かせるユイと俺。ふとアンリさんの方を見ると――
「……」
少し気まずそうにもきゅもきゅと食事をしている。
「おっと……何か嫌いな物でも入ってた?」
心配になり俺がアンリさんに話しかけると、アンリさんはハッとしたようにキョドる。
「い、いえ!食事はとてもおいしいです!ただ、村のみなさんにあんなに迷惑をかけてしまった私が、こんな恵まれた扱いを受けていいのかと思ってしまって……」
俺とユイが顔を見合わせる。なるほど、アンリさん真面目だからなぁ。
「まぁ、マレクさんには後始末を押し付けてしまって申し訳ない気持ちはあるけど、幸い、村人に死者も出なかったしさ。それにもう向こうには戻れないだろうし」
「そうね。原則、一度その世界から存在を消すと、そのまま再度戻るのはNGね。因果律の歪みが大きくなりすぎて手に負えなくなるの」
「それ、初めて聞いたぞ」「そうだっけ?」と、俺とユイ。
「だから後悔しても仕方ないし、どうしても気になるなら、これから行く世界で、その分まわりの人に親切にしてあげなさいな」
「そうだな。過去は変えられなくても未来は変えられるってやつだな。一緒に頑張ろうぜ」
アンリさんは少し考え込んでいたが、――やがて、
「すぐには割り切れなさそうですが、そうですね、お二人の言う通り、これからの行いで償っていこうと思います」
と、笑顔で答えてくれた。
「さぁ、湿っぽい話はこれくらいにして、今は楽しみましょう!」
雰囲気を変えるためか、ユイはBGMを流す。ああ、これ、J-popだな。人気アーティストの。でもこれ、どこから聞こえてくるんだ? もうこの空間は何でもありだな、と思うが、気にしても仕方無いので、食事を楽しむことに。
――異世界の食事もいいけど、やっぱり、元いた世界の食事はいいね!
◆
「これ、とてもおいしいですね」
口元をおさえながら、アンリさんが感動したように口にする。
「ああ、ピザか。うまいだろ。俺のいた世界の食い物だよ」
「やっぱり、ユウスケさんは別の世界から来てたんですね」
「まぁね」
俺の元いた世界の話になる。
「嫌なことも多かったけど、うまい食事とか面白い遊びもあったし、今になって思えばそんなに悪くなかったかな」
「ここに自分から来るぐらいには追い詰められてたみたいだけどね」
「うるせー」「あはは!」と盛り上がる俺とユイ。話の流れからか、アンリさんから当然の質問が来る。
「どうしてユウスケさんはここに来たんですか?」
「ああ、まぁ、ちょっと嫌気がさしてな。新しい世界で一から頑張りたいって思ったからかな」
驚くアンリさん。俺は少し気まずくなり、ユイを見る。
――ユイは任せろとばかりに親指を立て、
「ユウスケのいた世界はあなたのいた世界と違って、世の中の仕組みがガチガチになってて息苦しいところがあるというかね? う~ん……わかりやすくあなたの世界で例えると……そう、奴隷! いや、家畜……? 的な扱いから抜け出せない人がいるのよ」
俺は飲み物を「ぶーっ!」と吹き出す。幸い、人や物の無いところに顔を向けられてたので被害はないが、「汚い!」、「ストレートすぎんだろ!」と、ユイと俺がギャアギャア言い合う。
「ユウスケさんも大変だったんですね……嫌なことを思い出させてしまってごめんなさい」
悲しそうな顔でアンリさんから同情のまなざしを向けられる。
――やめて! それは俺に効く!
「ま、まぁ、奴隷や家畜程悪い扱いではないと思うけど、当たらずも遠からずというか……自分で商売を立ち上げずに人に雇われる人は多かれ少なかれそういうところは避けられないと思うんだけど、俺の勤めていたところは少し他よりも待遇が悪かったというか……まぁ、そんな感じ。俺の能力不足が原因でもあるから世の中のせいだけにするのはお門違いではあるんだけどね」
俺もついつい真面目に返す。
「人には向き不向きがあるからね。私の仕事は、そんな、今の世界で窮屈な思いをしている人を、より自分を活かせる別の世界に転生させることなのよ。世界って言っても一つじゃなく、無数にあるんだから!一言で言えば、適材適所ってやつね!」
ドヤ顔で人差し指をふりふりしながらユイが言う。
「科学技術の発達した世界、魔法の発達した世界、亜人のいる世界……大自然、魔界、とかとか。私の知らない未知の世界だっていくらでもあるわ」
「素敵ですね……私も、少し楽しみになってきました」
アンリさんがほんわかと言う。癒されるなぁ。
――そうして俺達は話題に花を咲かせ、楽しいひと時を過ごすのだった。




