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異世界転生したくてもさせてもらえない件  作者: 転生希望のブラック会社員
<とある宿屋の受付嬢>編
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第33話 とある宿屋の受付嬢【8】暴動の後に

 宿を出るとケガ人が大勢おり、医療施設への搬入が進められていた。しかし、いまだケガを癒せないまま順番待ちの人もかなりの数いるようだ。そこかしこからうめき声が聞こえてくる。マレクさんと俺は、薬草を用いて手分けして彼らの治療にあたる。


「大丈夫ですか?」

「ええ、ありがとう……でも、どうしてこんなことに」


 俺はおばさんの傷に薬草を塗りながら声をかける。おばさんはとても悲しそうだ。


「とってもいい子だったのよ……あの子があんなことをするなんていまだに信じられないわ」


 宿屋の受付嬢さんのことだろう。俺だって彼女が犯人だなんて思いたくない。でも、操られた人達を彼女が先導し村を出て行ったところは大勢が目撃している。否定はできない。


「悲しそうな顔をしていたわ。何か事情があるのかも――」

 そんな時、男が話に割り込んできた。


「あいつは拾ってやった恩を仇で返したろくでなしですよ!何か事情があったとして許されることじゃない!」


 俺の宿代の立て替えのために受付嬢さんがブローチを渡した男だった。交換条件を果たしブローチを取り返したわけだが、今はそんな彼もケガをしており、たいそう怒っていた。


「拾い子だったんですか?よろしければ詳しくお聞かせ頂けませんか?」

 いつの間にか、近くの患者の治療にあたっていたマレクさんが戻ってきて尋ねる。どうやら治療は済んだらしい。


 男は受付嬢さんを引き取った経緯を語りだす。1年前、村近隣の雑木林で倒れているところを男が発見し、治療もかねて村に連れてきた。


 当時はだいぶやせ細っており、衣服もみすぼらしかったらしい。治療は無事済んだが、行く当てのないという彼女を男が引き取って宿の受付嬢として住み込みで働かせることにした。


「どこから来たかとかは聞いてないんですか?」

「覚えてないの一点張りでよぉ。仕事はできたし役にさえ立てばそれでよかったから、それ以上は聞いてねぇな」


 雑木林で行き倒れているところを拾われた……そこにヒントは無いだろうか。マレクさんにも意見を聞こうと顔を向けたところ――


「どうやら戻ってきたようです」

 マレクさんの視線の先には、こちらにかけてくる1頭の犬がいた。ドーベルマンに近い外見と言えば伝わるだろうか。


「村の外に待機させていた私の相棒ですよ。名前はペス。ペスには彼女達の追跡に行ってもらってました」


 犬――ペス――は走り寄ってくるとマレクさんの前に止まり尻尾を振る。マレクさんはペスの頭をなでながら、表情を読み取っているようだ。マレクさんとペスはおばさんと男から少し離れた場所に移動する。俺も後をついていく。


「どうやら見つけたようです」

 え!? さっきのやり取りでわかるの!?


「ははは、長い付き合いですからね。追跡が成功したかどうかくらいはペスの態度からわかりますよ」

 まぁ、見た目、賢そうな犬だしそんなもんなのかな。


「今からでも出立します。あなたも来られますか?」

「いいんですか?願ってもないことですが」


「彼女はあなたを眠らせて騒動に気づかせないようにしていた。薬を盛ったのか他の方法を取ったのかまではわかりませんが、彼女はあなたを傷つけることを嫌った。彼女の説得が必要になった場合、あなたの言葉なら彼女に届くかもしれない」


 マレクさんはそこまで考えてくれてたのか……俺は自分が薬を盛られていたことすら想像していなかった。もっと観察眼を磨かないとな……


「他には誰か連れて行くんですか?」

「村の人達に知らせるべきなのはその通りなのですが、伝えればまず間違いなく、大勢で行くことになるでしょう。そうなれば私達の接近も彼女達に露見しやすくなり、最悪、血みどろの集団戦闘になる恐れもあります。相手の目的もわからない以上、大勢での行動は避けたいところです」


「でも俺達二人だけじゃ、戦闘になった場合につらくないですか?」

「それはその通りです。ですが、無理に戦う必要はありません」


 そう言ってマレクさんは懐から瓶を取り出した。透明な容器の中には白い粉末が詰まっているようだ。


「あなたに取ってきて頂いたイノセントフラワーの花部分の粉末ですよ。これを呪いにより操られている者達に吸引させることができれば、解呪し正気に戻すことが可能です」


 既にこの村で実証済みですとマレクさんは言う。そうか、一部、捕らえた人がいると言ってたもんな。その時に効果を確認済みだったのか。


「この瓶を操られている村人の足元に叩きつけて割ってください。粉末を吸引さえさせられればいいのですから、無理に戦闘する必要はありません。呪具を持っていたとしても同時に解呪されることでしょう」


 確かにそれだったら少人数の隠密行動でもなんとかなるかもしれない。でも――


「なるべく屋内の方がいいですね。風上に位置取ることも意識した方がいいかも」


 アゴに手をあて俺はつぶやく。少しポカンとするマレクさん。俺がこの程度もわからないと思ってたのかも――なにげに失礼じゃね?


「ええ、その通りです。屋外で風が強い場合、計画自体を見直す必要があります。その場合は誘導含め別の手段をを考えましょう。それと――」


 マレクさんは懐からもう一つ瓶を取り出し俺に渡す。先程と違うのは、蓋部分の形状の違いかな。さっきよりも大きいな。


「スプレー噴霧タイプです。二つしか用意できなかったので、私とあなたが1個ずつ持ちましょう」

 それは便利だな。近寄られた際の手段としても有効だろう。


「ありがとうございます。では、早速行きますか?」

 マレクさんはうなずき、俺は急いで宿に置いている武器(鎌)とカバンを取ってくる。

 

 さぁ! 操られた村人の救出に行くぞ! 受付嬢さんにも聞きたいことはたくさんある。


 俺とマレクさん、ペスはそうして村の外へと歩を進めるのだった――


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