第312話 ファティリタス復興編 【第4クール】 終息
――森林跡地――
襲い来る魔族や消火の対応に追われながらも、こちらへ進軍しようとする教会軍の前に、遠くから応援に駆け付けてくれた皆が足止めしてくれているのが見て取れた。
俄然、皆の士気が上がる。
「ユウスケさん!」
「ああ! 来てくれたんだな!!」
本当は、戦いになる前の抑止力となってもらえないかと皆に相談を持ちかけたのだが、思ったよりも教会軍の動きは早かった。
――怖いし、嫌だろうに……。
特に、村の人々なんて、武器と言えるものなど持っていない。畑をたがやすクワなどだ。それでも、俺達を守るために、他のみんなと一緒に立ちふさがってくれてる。
なんだか、泣きそうになってくる。
だが、今はそんな場合じゃない!
「襲いかかってきた魔族の数もだいぶ減ってきてる。押しきるぞ!」
「「「おおーーーーっ!!」」」
皆で、最後のもう一踏ん張りを始める。
◆
――森林跡地近くの街道――
「所詮は烏合の衆です! 蹴散らしなさい!!」
「で、ですが…………」
枢機卿はイラだっていた。
――なぜ、こうも上手く行かないのか。
――なぜ、皆が自分に従わないのか。
兵は、新たに現れた寄せ集めの部隊に気圧されている。特に、魔族の男。明らかに異質な魔力を放っている。
今は牽制程度にしか魔法を使ってこないが、いざとなれば直接的に使ってくるだろう。兵達も及び腰だ。
――忌々しい!
「あの魔族を集中的に狙いなさい!! ――歯向かえば、お前達も異端とみなしますよ!?」
暴論だという自覚はある。だが、魔族を前に腰が引けてるようではどちらにせよ使い物にはならない。
兵達が恐怖をおし殺しながらも前に出ようとした、その時――
◆
「もう止さないか、枢機卿。そなたの負けだ」
「――――な!? 国王!?」
背後から不遜な声がかけられいらだたしげに振り返ると、国王と近衛兵達がいた。軍の本部長もいる。
近衛兵達は皆武器を携えている。いざとなれば武力介入してくるのは明白だった。
枢機卿は動揺をなんとかおし殺しながら、国王に相対する。
「国王自らお出でとは珍しいですな。――まさか、こたびの<異端審問>に介入するおつもりで?」
「場合によってはな」
教会は国に従属はしていない。お互いの領分に干渉しないのが、暗黙の了解となっている。
枢機卿はその点から攻めるが、国王は平然と“介入する”と言う。
「過干渉は、大きな問題に発展しますぞ?」
「いやいや。あそこは、国の管理地だ。そこで起きているトラブルを収めて何が過干渉か」
「既にあそこは汚染されています。魔族やそれをかくまう異端者共によって」
「ふむ……。人と魔族が協力して自分達の住みかを守ろうとしているだけにしか見えんが」
「魔族が増えてまた大戦になったらどう責任を取るのです!? 私達は、脅威の種を未然に取り除いているだけですぞ!!」
らちが明かず、枢機卿はついに声を荒げる。だが、国王はどこ吹く風だ。ゆるやかにやり過ごす。
「たとえ勝者でも、敗者を根絶やしにしてよい訳がない。これは、長く停滞していた“歩み寄り”のきっかけよ。――恐れていては、先に進まん」
「魔族を恐れる!? 見当違いにもホドがありますな!!」
「先程自分で言ったではないか。“魔族が増えてまた大戦になったらどうする”と。それが恐れでなくなんなのか。――このファティリタスの誰もが無理だと決めつけた“人と魔族の共存”。その道を体現して見せているのが、彼らだとは思わんか?」
国王のその言葉に、教会軍の兵の一人が、武器を取り落とす。それが伝播し、次々に兵が、武器を捨てていく。
“戦わないですむ道があるなら……”。
その可能性の芽をつむことを嫌い、兵の大部分が戦意を喪失した。
ユウスケ達が森林跡地での防衛対応を終える頃には、こちらでも決着が着いた。こうして、事態は終息へと向かう。




