第295話 ファティリタス復興編 【第4クール】 騎士団と教会
【翌日】
――中央都市・軍本部前――
軍本部前に騎士団員達が整列していた。総数は三十を越える。騎士団自体の総数はもっと大勢いるが、いきなり大軍で向かうのも相手方に迷惑だと思えたため、人数はおさえてある。
整列する団員達の前には、甲冑に身を包んだクラウディアがいた。皆を見回して声を張り上げる。
「総員傾注!!」
兵達が一斉に姿勢を正す。一糸乱れぬ動きで、統率の高さがうかがえた。
「既に伝えた通り、これより、南部に新しく興った集落の調査に赴く。皆、心してかかるように!!」
「「「はっ!!」」」
覇気ある兵達の返答を受け、クラウディアは満足げにうなずいた。
――そう。実際には、教団に狙われている住人の保護が目的だが、さすがに大っぴらには掲げられないので、調査を表の目的としている。内々にはその旨兵達に周知してあるので問題は無いだろう。
「では出発!!」
クラウディアが馬にまたがると、兵達も続々と騎乗を始めた。クラウディアを先頭に、騎士団が中央都市を出立するのだった。
◆
――教会本部――
「軍もバカではないか。王を取り込んで大義名分を得るとは」
「落ちついている場合ですか!! これでは、こちらが不利ではないですか!?」
教会本部には、会議にも出席していた役人が何人か来ていた。騎士団が物々しく中央都市から出て行ったとの話を耳に入れ、『すわ、一大事!』と教会に報告に来たのだ。
役人達の顔色は悪い。が――
「ご安心めされよ。何も、崩し方は一つではない」
枢機卿が余裕を崩さずに告げるが、役人達はうろんげな眼差しを向ける。
「一体、何をなさるおつもりか。危ない橋は渡れませんぞ」
元々、利害の一致で教会側についている役人達だ。早々に寝返る可能性を示した。
(これだから信仰無き者共は……いや、だからこそ扱いやすい)
笑顔の裏で計算しながら枢機卿が話を続けた。
「そちらに迷惑はかけませぬ。――なに、野蛮な魔族がらみでは不幸な事故はつきものではないですかな? 魔族が人に害を為す存在だと示されれば、我々の大義が通るというもの」
枢機卿の発言により場に沈黙が降りる。役人達は、その手段や自分達の保身に影響ないかをはかっているのだろう。やがて、役人達はうなずき合うと、そのうちの一人が枢機卿に向き直った。
「いやはや、全くその通りですな。“事故”であれば仕方無い。魔族は野蛮ですからな」
役人は深くは踏み込まず、同意を示すだけにとどめた。いざとなれば逃げるが、事の継続には同意したとの意思表示なのだろう。
(……ふん、俗物共が。まぁ、よい)
「では、こちらも急ぎ軍を編成しましょう。明日には出立できるように」
この場はそうしてお開きとなった。ユウスケ達は自分達の預かり知らぬところで、様々な人間達の思惑に巻き込まれるのだった。




