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異世界転生したくてもさせてもらえない件  作者: 転生希望のブラック会社員
<とある宿屋の受付嬢>編
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第29話 とある宿屋の受付嬢【4】パウロの丘

 明朝、宿から出た俺は、武具屋でラージマンティスの素材から作ってもらった鎌を受け取り、目的地であるパウロの丘に向かう。


 ひのきの棒から武器がランクアップしたのは嬉しいが、鎌って……どうにも扱いにくそうだが、どうなんだろうな。とりあえず、背中に縛りつけて装着する。


 パウロの丘は、村を出て街道を東に進んだ先にあるはずだ。三叉路に立て札もあったし、迷うことはないだろう。昨日雑木林で確保したキノコや果物をおやつ代わりにかじりながら徒歩で向かう。ちょっとした遠足気分だな。


――パウロの丘での目的は二つ。


 植物の研究家であるマレクさんからの依頼で、イノセントフラワーという花を摘んでくることがまず一つ。

 図鑑でイラストを見せてもらったが、ヒマワリの白バージョンと言うのがしっくり来るだろうか。きっと、実際に見たらわかるだろう。


 もう一つは、マウントベアの爪を取ってくること。

 宿屋の受付嬢さんが俺の宿泊費の建て替えとして、男にブローチを差し出した。

 俺は金を返すから返してもらうよう男と交渉したが、マウントベアの爪と引き換えなら返すとのことだったので、しぶしぶ引き受けた次第だ。


 しかし、マウントベアの強さは未知数だ。昨日、素材を換金する時に商人からさりげなく聞いたが、結構ヤバいらしい。会ったら逃げろと忠告された。巨大な熊で胸元に三日月型の模様があるのが特徴らしいが……


 俺は今更ながらに顔を青ざめさせるも、やると言った以上はやらないと!と気圧されかけた気持ちに気合いを入れる。そうだ、戦わなくても爪を取ってきさえすればいいんだ。……でも爪って無理だろ。とりあえず今回は遠目に見るだけにするか……



 悶々とあれこれ考えながら歩くうち、丘に到着したようだ。地面が少し小高く隆起しており、木がまばらに生えている。結構広そうだな。


 さて早速と、まずはイノセントフラワーを探しに散策する。綺麗な景色を楽しみながら、地面を注視していく。色んな植物があるが、どれも違いそうだな。奥へ奥へと進んでいく。


 ある程度進むと、開けた場所に出た。辺り一面花畑だ。おお、これならあるんじゃないか?早速手探りで探していく。白い花、白い花――


「あった!」

 ついに見つけた。見た目も図鑑と一致している。群生しており、できる限りもって帰ろうと、せっせとカバンに詰め終えた時だった。


「ガルルルル……」

 ……不吉な声音、というか鳴き声にビクリとしながらそろりと振り向くと、狼っぽいモンスターがいた。それも複数。……俺、おいしくないですよ?


 すぐさま撤退しようとするが、帰り道は狼達にふさがれ、逆に先を見ると、ちょっとした崖になっている。これは落ちたら助かりませんねぇ~……周りは見晴らしがよすぎて遮蔽物がないから隠れるのも無理そうだし。


 緊張した働かない頭で打開策を検討するが、もう無理だろ諦めろと自分の中の悪魔がささやく。諦めよすぎだろ!と、とりあえず作ってもらった鎌を震える手で構えたその時――


「グオオォッ!」

 奥から巨大な熊が現れた。胸元に三日月型の模様がある。これあれだろ? マウントベアだな?


 詰んだ。いい人生だった……(悪魔が「本当に?」うるさい!)と天を仰ぐ俺。すると――


「ガァッ!」

 狼達がマウントベアに襲いかかった。え!? そっち!?


 マウントベアも応戦し、狼達vsマウントベアの戦闘が始まった。あれか? 縄張り争いってやつ? それとも食糧(俺)の取り合い?


 無視されてる俺としてはとりあえず、逃げることを考える。そろりそろりと忍び足で戦闘エリアに入らないよう、迂回して元来た道を目指す。気配を断つんだ! そう、俺は空気なんだ!


 もうちょい!とゴール間近になり少し心が歓喜したと同時、


「「………………」」

 狼達とマウントベアが戦闘を中断し、こちらをガン見している。お前ら実は仲良いだろ!!と心の中で絶叫する俺。とにもかくにも逃げの一手だ!


 そこからは全力疾走で、手頃な木を探し、よじ登った。木登りなんて初めてだよ。人間、生存本能は凄いようで、無理だろこんなんと思うような木登りもなんとかできた。


「はぁっ……! はぁっ! ……はぁっ」

「ガルルルルル!」

「グオオォォッ!」

 樹上から下を見ると、狼達とマウントベアが一緒にこちらを威嚇している。お前らさっきまで戦ってたじゃん! なんなん!!


 泣きそうになりながら木に必死にしがみつく俺。マウントベアが何度か木を殴り付ける度に揺れて落ちそうになる。やだ! 落ちたら絶対死ぬもん!


 諦めるまで待つ? いや、こいつら、諦めた振りして距離を取って、俺が地上に降りるのを近くに潜みながら待ってるよ!


 被害妄想が爆発してる俺はなんとか撃退しないと!と樹上から鎌を振り回す。もう怖くて目を閉じてたね。


「キャウン!?」

「グァァ!?」


 なんかすごいザクっとした手応えを感じた。肉を裂いて何かを切り飛ばしたような。おっかなびっくり瞼を開ける。すると――


 背中を斬り裂かれた狼と、指を斬り飛ばされたマウントベアがいた。どちらも俺のいる木から距離を取っている。あれ? なにこの棚ぼた……? もうチャンスはここしかない!


「があああぁぁっ!」

 人生で一度も出したことのない大音声での威嚇をする。狼達とマウントベアは一瞬ビクっとし、少しして立ち去った。


 ……俺、生きてる! 生きてるよ!!

 歓喜のあまり泣きそうになり、命を救ってくれた愛鎌、ラージマンティスの素材から作ってもらった鎌を撫でる。ありがとう……ありがとう……!

 初めは鎌って……と思ったが、長物がこんなに役に立つなんて……! それに、同じ長物でも、槍とかだったらこうも上手くは行かなかったと思う。遠心力で切り裂く鎌でこそだ!


 しばらくして、用心深く周りを見渡してから、そろりと地上に降りる。待ち伏せは……無いみたいだ! そういえばとマウントベアから切り飛ばした指、というか、爪を探す。あった! 血痕のある箇所に三本落ちてた。経緯はどうあれ、マウントベアの爪、ゲットだぜ!



――爪の回収後、もうやだとばかりに丘から村にすぐさま帰還するのだった。



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