第284話 ファティリタス復興編 【第4クール】 <界越の水晶>
――魔城・庭園――
庭園には色取り取りの花々が咲き、草木もよく手入れが行き届いていた。見ると、庭師らしき魔族も何人かいる。なるほど、やはりバイラルは貴族的だな。色々行き届いている。
噴水もあった。絶えず水がわきでており、清涼な気配が周囲を満たしていた。
アンリさんは子供達に連れられて遠くで花を見ている。この場には、俺とベリアルだけだった。
「それにしても、ここ、どこなんだ?」
廃城から転移してこの魔城に来たけど、ここは本当にファティリタスなのか? ここだけ楽園を築いてる気がする。
「ここは別空間だよ。魔王様がバイラルのために作ってくれた空間でね。魔王様亡き後もこうしてバイラルが住んでるのさ」
「へ~。――って、別空間!?」
なにげなくベリアルの解説を聞いていたが、サラッとスゴいこと言ったな。
「ベリアルはもらわなかったのか?」
「僕はこんな広い場所をもらってももてあますしね。それに、家来もいないし、アンデッドを使うだけだから」
なるほど。確かにそれはあるかもな。たくさんの魔族を養うバイラルこそだから与えられたのかもな。
「それに、僕にはこの水晶があるからね」
そう言って、ベリアルは紫色の水晶を取り出した。
「もしかして、それも魔王からの贈り物?」
「そそ。――ユウスケにならいいかな。これは<界越の水晶>って言ってね。ただアンデッドを召喚するだけじゃないんだよ」
ふむ。カイエツ? よくわからんがスゴそうだな。
「こことは別の世界との隔たりを越えることができるんだ。僕はアンデッド用に使ってるだけだけどね」
ベリアルは愛おしそうに水晶をなでている。
――ふむふむ。つまり?
「試したことはないけど、その気になれば、ユウスケ達のいる世界にも行けちゃうかもね」
「マジか」
能動的に異世界転移できるってことか? だとしたら凄まじい力じゃないか!
「まぁ、ほんとにできるかはわからないけどね。魔王様から聞いた話ではそうってだけ。それに、そのためには膨大な魔力も要るみたい」
なるほど。確かに、それ程の力、やすやすと使えるはずはないか。
「誰にも言っちゃダメだよ? ユウスケを信じてるから教えたんだからね?」
「わかった。確かにそんなスゴい水晶、他の奴に知られたらろくなことにならないだろうしな」
奪いに来る奴だって出るかもしれない。
「ユウスケさ~ん」
アンリさんが笑顔でこっちに手を振っている。
「呼ばれてるね。行こっか」
「ああ」
俺達はアンリさんや子供達の元に向かった。
――まさか、この時の会話が“フラグ”だなんて、この時の俺には知る由もなかった。




