第280話 ファティリタス復興編 【第4クール】 夕食会
――魔城・客間――
――コンコン
「――んん?」
ドアのノック音で目覚める。暗いな。そうだった。夕食待ちで部屋の明かりを消して寝てたんだった。周りも物音で目覚めたようだ。
「は~い」
「お食事の用意ができました」
部屋に案内してくれた侍女さんの声だ。俺は「すぐ行きま~す」と答え、皆と共に身支度をする。
と言っても、服の身だしなみをチェックするくらいだけどな。子供達は寝ぼけまなこなので代わりにチェックをしてあげる。
「――ちょっ! レディに何してくれてるのよ!!」
「――ごふっ!」
覚醒したフランから正拳突きのようなものが放たれ俺のみぞおちに吸い込まれた。痛みでぷるぷる身もだえる。――普通、やるとしてもビンタくらいじゃね!? と抗議したい。
「さ、行くよ~」
「「「は~い♪」」」
ベリアルの合図で、何事も無かったように皆が部屋を出ていく。――俺への扱いの酷さが悲しかった。
◆
――食堂――
「ん? ああ、おやすみ中だったかな? 悪かったね」
食堂に入るとバイラルが察したようで謝ってくる。みんなスッキリした顔をしてるからな。寝てたってわかるか。
長いテーブルには真っ白なクロスがかけられ、その上に豪勢な食事が所ぜましと並べられていた。それを見た子供達の目がキラキラ輝いている。
俺からしてもスゴいご馳走だ。『来てよかった』と我ながら現金だがそう思う。
テーブルの対面にはバイラルと四人の妻が並んで座っている。俺達はその対面に並んで座った。
「では、冷めないうちに食べようか」
そんなバイラルの合図で夕食会が始まった。
◆
「おいしい!」
エミリーが満面の笑みで食べて大絶賛だ。フラン達もスゴくおいしそうに食べている。連れてきてよかったな。
――そうか。普段こんな贅沢はさせてあげられてないからな。そう考えると少し胸が痛む。
「いっぱいあるから好きなだけ食べていいよ」
「「「ありがとう!♪」」」
ニコニコ顔のバイラルに勧められ子供達はさらにペースを上げて食べ続けるのだった。
俺も食べる。元の世界でも食べたことがない美食の数々だ。どれもくどくなく、それでいて繊細な味付けに魅了される。
アンリさんは『ふむふむ』と納得しながら食べている。この経験でさらに料理スキルに磨きがかかることだろう。頼もしい。
ベリアルは食べなれているのか、「うま~♪」とご機嫌ながら自然に食べ続けていた。
◆
「それにしても驚いたよ。人間嫌いのベリアルがこうも君達に馴染むなんて」
バイラルから感心した声がかけられる。
「ユウスケ達は別だよ」
「そういうことみたいです」
今となってはベリアルも立派な仲間なので、人間嫌いと言われてもピンとこないくらいだ。
「でもバイラルさんも珍しいですよね。人間の妻を娶るなんて。――しかもこんなに。魔族でもそうそういないでしょう?」
「バイラルだからね」
バイラルへの問いだが、ベリアルが返事をしてきた。妙に説得力がある。――まぁ、“色欲獣”って前に言ってたもんな。
「ベリアル。君は私のことを誤解しているよ」
「何がさ? 子供、何人いるんだっけ?」
ベリアルからしたら何げなく発した言葉なのだろうが、それが“嫁間闘争”の幕開けとなるのだった。




