第27話 とある宿屋の受付嬢【2】交換条件
文無しの俺の宿泊費用のために、宿の受付嬢さんが、陰ながら自分のブローチを差し出し、費用を立て替えてくれていた。
それを知った俺は、なんとしてもお金を稼ぎ、必ずブローチを取り戻すことを決意する。
――翌朝――
「あ、昨日はよくお休みになられましたか?」
昨夜あんなことがあったのに、受付嬢さんは笑顔で話しかけてくれる。
「昨日はごめんね。おかげでゆっくり休めたよ」
これ程人に感謝したのはいつぶりだろうか?
「ところで、お金を稼ぎたいんだけど、実入りのいい仕事とかってないかな?」
そうだ。まずはお金をどうにかしないと。
「うーん、ここは田舎の村ですからね。町まで出れば色々あるんですけど……」
そうだよなぁ。そんな都合よくは見つからないよな。
「そういえば、最近、この村に来ているおじさんが仕事のお手伝いを探してました。何の仕事かまではわからないんですけど」
一度話を聞いてみてはどうでしょう?と勧めてくれる。そうだな、まずは話を聞いてみよう。俺は受付嬢さんからそのおじさんの風体と居場所を聞いた。
「ありがとう。この恩は忘れないよ。お金を用意できたら返しに来るから」
そんなのいいですよと手を振るお嬢さんに背を向け宿屋の外に出る。
◇
宿を出た俺は周囲を見渡す。店の中にはいなかった。だから外にいると思ったのだ。そして見つけた。
「昨日はご迷惑をおかけしすみませんでした。お金をそろえたら返しに伺います」
そう、昨夜、受付嬢に怒鳴っていた男だ。
店の外でサボっているところに近づいて話しかけたのだ。
男はチッと舌打ちし、シッシッというように手を振る。
「一つだけ。私がお金を支払いましたら、彼女のブローチを返してあげて欲しいんです」
男は初めて俺を見た。
「おめぇ、見てたのか」
昨夜のお嬢さんとのやり取りをということだろう。
「はい」
男の目を見て言う。
男はふんと鼻を鳴らし、
「あれはもう俺のもんだ。返すつもりはねぇな」
だからと言って引き下がれない。
「何か、代わりになるものを俺が探してくる、それと交換条件じゃダメでしょうか?」
男は面白そうに俺を見る。ニヤリと笑い――
「そうだな。じゃあ、パウロの丘に出る、マウントベアの爪を持ってこい。それとなら交換してやる」
俺は約束をする。危険だろうが、やるしかない。
「あんまり遅いとブローチを売っ払っちまうからな」
そう釘をさされ、俺は背を向け歩き出した。
◇
自分の装備を見る。
武器……ひのきの棒
防具……布の服
……貧弱にも程があるな。まずは装備と直近必要な食事をなんとかしないと。
次に俺は、宿屋のお嬢さんから聞いた、最近村に来ているというおじさんのところに向かう。風体とだいたいの居場所は聞いている。
やがておじさんを見つける。
「お金が要るんです。何か仕事を頂けませんか?」
おじさんに話しかける。
「君はこの村の人じゃないね。――ちょうどいい、か……」
おじさんは俺の身なりを見て言う。最後の方が聞き取れなかったけど……
「じゃあ、仕事を頼もうかな。私はマレク、植物の研究家だよ。今、ある植物を集めていてね。この地方ではパウロの丘辺りに群生してるらしいんだが、モンスターもいて取りに行けなくてね」
図鑑を開き、とある植物のイラストを見せてもらう。白い花をつけた植物だった。イノセントフラワーというらしい。
「報酬は1輪辺り銀貨3枚でどうかな?」
モンスターが出るとのことだが、無理して戦う必要は無いだろう。うまくやればなんとかなるかな?
それに、宿屋の男からの依頼、マウントベアもパウロの丘にいるはずだ。一度遠目に見てくるのもいいだろう。
「わかりました。是非やらせてください」
快諾する俺だが、マレクさんは俺を見回し不安そうだ。
「そのままの装備で行くのはちょっとオススメできないね。この村にも武具屋はあるから、そろえて行くといい」
その金がないんだけどな。
「財布を無くして手持ちがなくて。取り急ぎお金を得るにはどうしたらいいでしょう?」
少しだったら前払いしようかと申し出てくれるマルクさんの厚意をやんわりと断る。
「そうだな。なら近隣のモンスターを狩ってその素材を商人に売るのが手っ取り早いかな。それと、素材を武具屋に持ち込んで、加工して武具にしてもらうなら少しは安くすむよ」
良い情報をもらった。マレクさんにお礼を言い、早速村の入り口にむかう。
まずは近隣のモンスターを狩ってお金を稼がないとな。
やることは山積みだ、頑張んないと!




