第248話 ファティリタス復興編 【第3クール】 できることを
――森林跡地・家――
「僕はもともと、東では人間社会にまぎれ込んでてね。――ほら、こんな美少女だろ? ローブをまとって気配をおさえたら、まず魔族だって気付かれない」
夕食を食べ終えた狼男二人を家に連れていき休ませた。案の定、一気に食べすぎて腹痛を起こしたので、アンリさんが胃薬をあげていた。
腹がいっぱいになって満たされたのか、二人は家に着くとすぐベッドに入って眠った。
そして、ベリアルてアンリさんと三人で、今は静かな食卓を囲んでいた。ベリアルは、集落から物々交換でもらった酒をのみ、アンリさんの用意してくれた夜食を食べながら話を続ける。
「魔王様が倒されちゃって以来、僕ら魔族は住みやすいところから追い出されちゃったからね。人世にまぎれて食料を確保して魔族に流してたんだ」
「スゴいな。なかなかできるもんじゃない」
俺は素直に感心してほめるも、ベリアルは首をふる。
「スゴくなんかないさ。バイラルみたいに、城を持って仲間を養える訳じゃない。そんな甲斐性、僕にはないんだ」
「でも、ベリアルさんに救われた魔族の方も、多かったんじゃないですか?」
アンリさんもフォローを入れる。だが、ベリアルの顔は暗い。
「援助だって、すみずみにまで行き渡らせるのは不可能だ。それに、人間達のせいで自然が壊されて住める場所も減ってる。――ジリ貧だったんだ、正直」
そこまで言うと、酒の入ったグラスをあおった。結構なペースだ。だいじょうぶだろうか?
「君らから、ここで復興支援してるって聞いた時は、バカなって思ったよ。そんな簡単にできるわけないってさ」
「まだまだだけどな」
実際まだまだなので俺はそう返すが、ベリアルは笑いながら首を横にふった。
「立派じゃないか。まだ規模は小さいけど、立派に復興や生活の地盤が作れてる。僕にはとうてい出来ないことだよ」
「そ、そうか……そりゃ、どうも」
ほめられるとどうにも照れ臭く、俺は鼻の頭をかいた。
「いくら幹部ってもてはやされたって、僕なんてこの程度なんだ。――悪いね。ほんとは嫌だろ? 子供達のいるところに魔族を連れてくるなんて」
「んー。子供達に危険が及ぶのは嫌だから『狼男!?』とはなったけど、会ってみると――まだよくわからないが、“普通”だったな」
「そうですね。私の料理を食べ終わった後、『ありがとう』って言ってくれましたよ?」
アンリさんが嬉しそうに言う。そうだな――
「他人を思いやり合えるならだいじょうぶだろ」
「そっか……」
それだけ言うと、ベリアルはうつむく。そして――
――コテン
俺の肩に頭を乗せてきた。いきなりの美少女の急接近にドギマギする俺。一方、アンリさんから伝わるこわいオーラ。俺は戸惑いながらもベリアルを見ると――
「寝てる……」
ベリアルは疲れ果てたのか、『すーすー』寝息を立てて寝ていた。
この不器用にもがんばり屋の魔族の幹部様のことだ。今回も自分のことは差し置いて魔族のために頑張ったに違いない。
俺はベリアルを抱えて寝所のベッドまで運び、そっと静かに寝かせるのだった。




