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異世界転生したくてもさせてもらえない件  作者: 転生希望のブラック会社員
<ファティリタス復興>編 【第3クール】
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第231話 ファティリタス復興編 【第3クール】 ベリアル

――南西の集落――



「やぁ、ベリアル。困るから手は出さないでって言わなかったかな?」

「僕はこの子達をアンデッドにしただけ~! 直接手は出して無いよ~?♪」


 少女――魔族の元幹部ベリアルの少しも悪びれない態度に、ここにいる面々が気色ばむ。


 ベリアルはフード付きのローブを纏っていた。今はフードを外して顔を晒しているが。褐色の肌で、耳は尖っていた。


 それにしても、ローブの女って、もしかして――


「――――ひ、ひぃっ!」

「おめでとう! よかったね! 優しいバイラルに甦らせてもらえてさっ!!」


 アンデッドから甦った4校生徒がベリアルを見て座り込みながら後ずさる。ブルブル震えている。余程の恐怖を味わわされたようだ。


 残りの4校生徒二人もいつの間にか目覚めており、恐怖に顔を歪めていた。



「屁理屈はよさないか。私は迷惑してるんだ。君の命令以外でアンデッドが動くわけないだろ?」

「この集落の近辺に連れてきて、後は自由にさせましたよ~だ! だから、やったのはこいつら! どう!? 見ものだったでしょ!?」


 ベリアルは楽しげに笑っている。作り笑いでもなさそうだ。それが否応なしにこの少女の狂気を物語っている。


 しかしここで、今まで静かだった人物が動いた。



――パンッ!


 大きな音が響き渡った。一部を除き、皆顔を青ざめさせている。リンダがベリアルを平手打ちしたのだ。


「――いったいなぁ」

「この人達があなたに何をしましたか!?」


 転がる集落の住人の骸を指差しリンダがベリアルに問う。


「バイラルぅ~。玩具の躾がなってないよ? ――そんなんじゃ……壊しちゃうよ?」


 ベリアルから瘴気(しょうき)のようなモヤがわき出る。バイラルが慌てて前に出てリンダを後ろに下がらせた。


「落ち着くんだ、ベリアル」

「何をしたか? バイラルを殺しにこのゴミ共を差し向けたでしょ? 今までずっと、他の魔族を殺しに兵を差し向けたて来たでしょ? あんただって、こいつらに追い出されたんでしょうが!!」


 ベリアルの纏う瘴気の勢いが増した。目が金色に煌々と輝いている。ベリアルの怒りは加速する。


「僕らの仲間を笑いながら殺した種族なんだ。今すぐにでも滅ぼしてやりたいさ! ――ねぇ、教えてよ? 『やった! “中ボス”撃破だ!!』って、何? 異世界から来た君達なら、あいつらの言ったコレの意味、わかる?」


 俺達異世界人にベリアルが尋ねるが、答えられる者はいない。意味を知らないからじゃない。()()()()()()()()()()。ジェシカは少し離れたところで目をつむっていた。


「“異世界人”って聞くとさ? あの時のことが思い出されて憎しみが抑えられなくなるんだよ!! なんでまた来てんのさ!?」


「それは、この世界の復興のために……」

「あんたら異世界人が壊したんだろうが!! ここには無かった兵器を次々に開発して!!」


『俺達じゃない』とは思っていても、誰も言えなかった。ベリアルに取っては、自分達の持たない先進的技術を持ち込み、ファティリタスを――この世界の自然を壊し、魔族達を殺す異物に過ぎないのだ。


「だったら……少しくらい痛い目見させてもいいじゃない。やられっぱなしじゃ、割に合わないでしょ?」


 ベリアルのその言葉に返せる者はこの場にはいなかった。ベリアルの苦しみの前には、どんな言葉もちんけにしかならないとわかっているから。


 だけど――



「一緒に暮らさないか?」

「ユウスケさん……」


 そんなの悲し過ぎる。どちらかが滅びるまで憎しみは終わらないじゃないか。アンリさんは俺の名をつぶやいた後、俺の横に並んだ。



「――――は?」


 たっぷり間をおいて、ベリアルからそれだけの返答があった。他の皆も、『何言ってんだこいつ』みたいな顔をしている。


「南の森林地帯でさ。今、魔族達と暮らしてるんだ。――というか、暮らし始めたって感じかな? そこでは、ここにいるジェシカやランディ含め、魔族と仲良くやってる。――まぁ、まだ魔族を毛嫌いする人間も多いけどさ……」


 名を呼ばれたジェシカとランディがこちらに寄ってきた。


「私は勇者パーティの末裔よ」

「ジェシカ!!」


『こんな時になんてことを言うんだ!』とランディがジェシカを怒鳴り咎めた。勇者パーティと言えば、魔族に取って一番の仇だ。案の定、ベリアルの怒気が高まりジェシカに向けられた。


「祖母はずっと悔いていたわ。自分達は愚かだったと」

「だからって! 死んだ魔族達も! 魔王様も帰って来ない!!」


 ベリアルの慟哭だった。怒りと哀しみがごっちゃになって、その感情がとめどなく溢れてきているのがわかる。


 だが、ジェシカはそれを受け止める。


「えぇ。あなたの言うことはもっともよ。だから――」


 ジェシカはその場に膝をつく。そして、「お、おいジェシカ……」と困り果てるランディをよそに――


 土下座をした。



「な、何だよ、それは!?」


 意味がわからず、ベリアルがジェシカに問いただす。ジェシカは、額を地面から離しベリアルの方に顔を向けると、こう告げる。


「勇者パーティにいた私の祖母のいた世界では、これが“最上級の謝罪”らしいの。だから――」


 もしかしたら、ジェシカのおばあさんは、俺と同じ地球の日本出身だったのかもしれないな。そう言われてみると、ジェシカはどこか日本人っぽい顔立ちをしているような……。


 俺がそんなことを考えている間にも会話は続いていた。


「何でお前が謝るんだよ!?」

「祖母はもういないから。なら、せめて私が謝ろうと思って」


 ジェシカに一切の戸惑いは感じられなかった。肝がすわっているというか、なんというか……。


 ベリアルの心も揺らいでいるようだ。取り巻く瘴気も揺らいでいる。ほんとは、残虐な奴じゃないのかもしれない。なら――



「色んな奴がいる。人間にも。お前から見て、ジェシカはどう映る?」

「――変な奴」


 ボソッとそれだけ言うと、ベリアルを取り巻く瘴気が消え失せた。煌々と輝いていた目も元に戻っている。


「あ~あ。しらけちゃった。か~えろっと」

「ベリアル。話はまだ――」


 バイラルが止めようとするが、ベリアルは――


「人間相手に子孫を残すことだけ考えてる色欲獣は黙っててよ。もともとは君を救おうとこいつらをやっつけたんだしさ。じゃ、後始末よろしく~♪」


 それだけ言うと、ベリアルの姿はかき消えた。



 後には、微妙な沈黙だけが残った。



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