第221話 ファティリタス復興編 【第3クール】 呆然
――南西の集落外・東――
リンダは魔族の幹部バイラルに連れられ、共に去っていった。どうやってか、周りの者も含め、姿がかききえた。転移の魔法だろうか。
その様子を呆然と眺めている男が一人。アルトだった。いや、正確にはアルトだけでなく、少し離れたところに四人の男女がいた。
(どうするのよジョセフ!? めちゃくちゃ気まずいわよ!?)
(だよねぇ……)
(お、追いますか? 行き先は東の廃城でしょうし)
(でも、あんなにいい雰囲気だったら、邪魔ものは俺達だぞ!?)
エマ、ジョセフ、アリア、ヘンリー。3校の生徒である。リンダが集落に帰ってきた時、リンダのご両親を探しに行き、急ぎ連れてきたが間に合わなかった。
集落の東の入り口に着いた頃には、リンダは豆粒のように遠く小さくなっていた。そんな時、アルトに声をかけられたのだ。
「リ、リンダを追いたいんだ。付いてきてくれ!」
「――は?」
ジョセフが素でそうこぼすのを、3校生徒は初めて見た。何ですぐに追いかけてないのかわからず、理解できないものを見る顔だ。
「モ、モンスターが出たら危ないじゃないか!?」
「そりゃそうだ」
「ヘンリー。ほっときましょう。――ジョセフ、“追うわよ”!」
「わかった。すぐに追いかけよう!」
4人はすぐさまリンダを追った。そして、アルトは便乗して付いてきたのだった。
そして――
◆
彼らはリンダとバイラルのやり取りを、遠くから終始眺めていた。
リンダがモンスターに襲われかけたところを見て、「間に合わない!!」と肝を冷やしたが、突如現れた魔族がリンダを救った。そして、あの甘いやり取りである。
アルトなどは、石像と化していた。いや、そう見える程、呆然とまばたき一つしていなかった。
リンダと魔族が抱き合っている。そして、周りが騒がしくも祝福していた。で、皆で仲良く姿を消した。
人間と魔族が仲睦まじいことすら信じられないのに、よりによって、自分の身近なリンダが! というところだろうか? アルトを見ていると、なんだか憐れみを感じてしまう。色んな意味で。
(帰ろうか……)
(そうね。ご両親にもお伝えしないと)
ジョセフ達は静かにその場を後にした。エマが悩ましげに額を手で押さえている。他の皆も同感だった。
◆
荒野で一人、ポツンと取り残されたアルトがブツブツとこぼす。
「なんだって魔族となんか。俺よりもそいつがいいってのか? やっぱり“洗脳”されてるじゃないか。リンダを救えるのは俺だけだ。俺がなんとかしないと――」
現実逃避気味に呪詛のごとくつぶやき終えると、よどんだ目で集落へと戻って行った。




