第218話 ファティリタス復興編 【第3クール】 反応
――南西の集落――
「お、おいアレ……!」
「リンダじゃないか!?」
南西の集落の東、少し距離を置いたところに、リンダを乗せた魔族が着地した。少し前、リンダと魔族は話し合って、集落の少し手前でリンダを降ろすことを決めていた。あまり住人を刺激したくないからだ。
予想通り、集落の中がガヤついている。鎧をまとった集団まで出てきた。中央から派兵された軍隊だろうか?
「では、私はこれで……」
「はい、ありがとうございます。助かりました」
リンダと魔族は簡単に別れを済ませると、魔族は飛び去ろうと宙に羽ばたいた。
「や、矢を――」
「待って下さい!!」
隊長と思われる軍人が部下に矢を射させようとするのを、リンダの大喝が黙らせた。兵達はどうしたものかとオロオロしている。
「何の危害も加えられてません! それどころか、手厚く遇されていました! 今の魔族も私を送り届けてくれただけです!」
そこまで言うと、兵達は構えた弓をおろしてくれた。リンダもホッと一息つく。だが――
◆
「魔族にたぶらかされおったか! この者を集落に入れてはならん!」
人混みの奥から一人の老人が歩みでた。顎に豊かな白髭をたくわえた長老だった。リンダは唖然とする。兵士達も、先程とは別の意味で困惑していた。
「ま、待ってください! 私はたぶらかされてなんていません! 正気です!」
「それをどうやって示す!? 魔族をかばいだてするのがよい証拠じゃないか!!」
別の住人からも非難の声が浴びせかけられた。集落のお偉方の一人だ。リンダが“生贄”に申し出た時、特に積極的に後押ししていたのを覚えている。
リンダが困り果てて周りを見回した時、一人の男を見つける。
「ア、アルト! 私、何もおかしくない!!」
リンダはアルトに救いを求めた。以前から友達だったアルトならわかってくれるだろうと。だが――
「リ、リンダ。なら証拠を見せるんだ! おかしくなどなってないって、皆に示すんだ!!」
「そんなのどうやって!?」
リンダは混乱の極致に至った。味方だと思っていたアルトが、自分を疑っている。アルトの顔は青く、皆に注目され、やけにキョドキョドと落ち着きがなかった。周りの住人も程度の差こそあれ、皆同じように不安そうな感じだ。
(――ああ。そういうこと……)
リンダはうつむき、少し笑ってしまった。
「な、何がおかしいんだ!?」
「やっぱりリンダはおかしくなってるぞ!」
怖いのだ。この人達は。“理解できない存在が”。“自分達のコントロールできない存在が”。今まではその対象が魔族だった。――そして、今はそこに自分も加わっただけだ。
「リンダ! ま、“魔族に酷い目に合わされた”んだろ!? それで、ちょっと“おかしくなってる”だけなんだろ!? ――みんな! リンダは悪くない!」
周囲の険悪な雰囲気を察したのだろう。アルトがフォローしようとするが、有らぬことを肯定する気はリンダには毛頭無かった。
「さようなら。“おかしな”私は去ります。お達者で」
それだけ言うと、リンダは集落に背を向け去っていった。声が震えなかったのは奇跡だろう。目から雫が頬を伝う。そんなみっともないところを見せたくなくて、涙をぬぐわず俯きながら歩き去っていった。




