第216話 ファティリタス復興編 【第3クール】 リンダとバイラル
――魔城――
リンダは未だ魔城にいた。バイラルに客として手厚く遇されており、居心地は悪くなかった。
側につけられている侍女とも、よく話をするようになった。四六時中見張られているという訳でもなく、呼べば来てくれるという感じで、特に嫌ではなかった。
「そうなんですよ。ヒルダ様はもともと私達と同じ侍女だったのですが、バイラル様のご寵愛をたまわって――」
「やりそうですね。あの人なら」
そんなこんなで、色々なことを教えてもらった。侍女も嫌々従わされているという訳でもなく、バイラルのために尽くすのが生き甲斐という感じだ。
「今は魔族はこの世界じゃ肩身が狭いですからね。バイラル様は身寄りの無い魔族も受け入れてここで雇ってくれたり、私達にとって恩人なんです」
そう言う侍女は魔族だった。コウモリのような羽や悪魔のような尻尾が生えている。分類上はサキュバスになるとのことだ。サキュバスにも色々な種類がいるみたいだが、リンダには細かい区別はつかない。
ここに来るまでは魔族というと恐怖の対象だったが、しばらく一緒にいるうちに、見た目以外、自分達人間とそう変わらないのではと思い始めていた。正直、リンダとしては、もうバイラルの申し出――バイラル達魔族のいい噂を広める――を受けてもいいとさえ考え始めていた。
(危害を加えられないなら、意固地に嫌う必要も無いものね。――あの人の手のひらの上みたいなのが嫌だけど)
◆
夕食時、バイラル達と共に食事を取る。使い慣れていないナイフやフォークの扱いにもだいぶ慣れてきたように思う。
最初のうちは、眼前に甘ったるい光景が展開されていたが、リンダが不機嫌オーラを全力発散していると、自重してくれるようになった。少なくとも食事中は。
「どうかな? 今回の献立は、うちのシェフ一押しの逸品なんだ」
「ええ。とても美味しいです。スゴイですね、集落じゃこんな上品なお料理は食べたことないです」
「だろう? 明日は何がいい? リクエストはあるかい?」
バイラルは丁重すぎるくらいにリンダを遇してくれている。今もリンダの好きな物を用意してくれようとしていて、リンダにもその思いやりの気持ちが十分通じていた。だから――
「いえ、明日の分は結構です。――明日、帰ろうと思います」
「残念だ。妻になってくれないかと――」
「バ・イ・ラ・ルさまぁ~?」
「まだ懲りないのですか」
「またお仕置き~♪」
妻三人からつねられて「痛い痛い!」と叫ぶ姿に、魔族幹部としての威厳は無かった。リンダも思わずクスッと笑ってしまう。
「あなたの人となりはよくわかりましたので、私が十分に広めて差し上げます。『気の多い魔族がハーレムを築いてるけど、悪い人じゃないです』って」
「ついでに、妻募集ちゅ――ごふっ!」
「まだ懲りないのですか。これ以上増えても困ります」
ヒルダの遠慮なしの腹パンがバイラルのみぞおちに吸い込まれた。ぷるぷると苦しそうに震えている。
何はともあれ、和やかな一時をバイラルと一緒に過ごし、リンダは魔族に対し協力しようと心に決めるのだった。




