第215話 ファティリタス復興編 【第3クール】リンダ次第
――南下中――
「ユウスケさん、よかったんですか?」
「あんなに言われてまで助ける気は起きないよ。俺は“聖人君子”様じゃないんだから」
「セイジンクンシ?」
「ああ、わからないよな、ごめん。俺が元いた世界で、“非の打ち所の無い、理想的な人”みたいな人の例えだよ」
「ユウスケとは程遠いな」
「いやいや、ランディにはかなわないよ」
集落を出て、俺達はもといた南エリアの森林目指して南下していた。アンリさんは残してきた集落の人達のことが気になるのか、たまに振り返っているが、ドライ三人衆の俺達は気にせず帰っていた。
「手を出さなきゃ危害を加えられないなら安心できるしな。それがわかっただけでも来た甲斐はあったよ」
「そうね。いい収穫じゃないかしら」
「ジェシカに危害が加わらないか、気が気じゃなかったよ。もうこんなことは勘弁してくれよ?」
「別に付いてきてって頼んだ訳じゃないから。――でもそうね。色々と助かったわ、ありがとう」
「ジェシカ!! やっと僕を受け入れてくれたんだね!?」
「違う。さっさと帰るわよ」
俺達はいつものやり取りをしつつ、帰路についた。
◆
――南西の集落――
「た、隊長……」
兵士の一人から、隊長に不安そうな声が投げ掛けられる。それもそのはず。手を出さなきゃ無害だという相手にわざわざ仕掛けるのかという疑問を持ってしまったのだから。
「お、落ち着け。まずは、話に聞いた北東の集落に行き、住人達から話を――」
「そんな暇はない! リンダがさらわれてからどれだけ経ったと思ってるんだ!!」
隊長が部下達に指示を出そうとしているところにアルトが割り込んだ。長老達も追随する。
「あ奴らの言うことを真に受けてはいけませんぞ! 実際に異世界人様が殺されてるのです! そんな危険な魔族を放置するのですか!?」
「だが、それはそちらが促して攻めこませたのが発端で……」
「魔族は退治するもの! それが、我ら人間にとっての常識ではありませんか!?」
「北東の集落のように上手くやれる者達もいる。今のところ、向こうから危害を加えてきていないなら、あえて攻めこむ必要も無いでしょう」
早く軍隊を魔族退治に向かわせたい住人と、無駄な戦いをしたくない軍隊で意見が平行線になってしまった。皆が助けを求めるように、少し離れたところで話し合うジョセフ達を見た。
◆
「異世界人様も何か言ってやってくだされ!」
「えぇ……」
ジョセフ、頬をかきながら露骨に嫌そう。代わりにとばかりに、エマが前に出た。
「文句があるなら自分達で行けばいいでしょう?」
「こんなイタイケな老人に戦いに行けとは、なんて悪女じゃ!」
「異世界悪女!」
「あ、あんたらねぇ~……!!」
マズイ! エマがぷるぷる震えて目がすわっている。ヘンリーとアリアが慌ててエマの前に出た。
「まぁまぁ! 落ち着いて!」
「は、話し合いましょう……」
そして、思考に没頭していたジョセフはやがて顔を上げ、皆にこう提案した。
「では、期限を設けませんか? 連れられていったリンダさんが無事もどってくればよいのでしょう? ひとまずは。なら、彼女の無事の帰りを待ちつつ、その間に北東の集落に聞き込みに行く。それでどうでしょう?」
「う、うむ! それがいい! 私達もそうするぞ!」
「期限はいつまでのおつもりか? それと、リンダが無事に帰ってくるだけでは済みませんぞ。危険な魔族を退治してもらわなければ!」
「では期限は今から3日で。――それと、リンダさんが無事に帰ってくれば、“危険”ではないでしょう。なら、討伐も不要になりますね?」
口達者なジョセフにやり込められ、長老達は「うぐっ……!」と押し黙り、隊長達は感嘆をもらしていた。
こうして、本人の預かり知らぬところで、事は全てリンダに委ねられていた。




