第210話 ファティリタス復興編 【第3クール】どうすれば?
――魔城――
リンダは魔城に幽閉されている。――と、リンダ本人はそう考えている。この魔城に客として招待され今も歓待されているが、どうやって帰ればいいのかわからない。
そもそもここはどこなのだろう。廃城の魔方陣で飛ばされて来たのは理解したが、どの程度離れたところなのだろう。――まさか、現実から切り離された世界という訳じゃないよね。
側につけられた侍女に聞いても、「お答えできません」の一点張りだ。ならばと思い、会食時にバイラルやその妻達に聞くも、「居場所をバラしちゃ隠れてる意味がないでしょ」と軽くあしらわれてしまう。――まぁ、それはそうなのだが。
ちなみに妻達はレイラ、ヒルダ、ミユという名だった。三人とも美しかった。ミユは可愛い方の部類に入るだろうか。
いつもバイラルにべったりだが、リンダが困ったことがあると、察して声をかけてくれる。そんな優しさに驚いたりもした。
「私達もバイラル様に助けられたからね。困ってる人はなるべく助けるようにしているのよ」
「じゃあ、私を元の場所に返してください」
「それは私達にはどうしようもない。バイラル様にかけあって」
レイラとヒルダに連れられ、バイラルの自室に向かう。部屋の前に控えている侍女がレイラ達に会釈をすると、バイラルの部屋の扉をノックした。
「バイラル様。レイラ様、ヒルダ様、リンダ様がお見えです」
「いいよ~。入ってもらって~」
中から気さくな声がかかり、侍女が扉を開けて三人の入室を促した。
◆
部屋に入ると、そこは豪勢な部屋だった。床には深紅の絨毯が敷き詰められ、調度品は手入れが行き届いておりピカピカだ。そして――
大きな天蓋付きのベッドが部屋の窓際にあった。何人で寝ることを想定しているのだろうか。一人用としては余りに余剰スペースがある。リンダはふと、バイラルや妻達が絡み合う姿を想像してしまい、顔を真っ赤にした。
「どうしたのかな? まぁ、そこに座ってよ」
「は、はい」
バイラルにソファに座ることを促され、そのまま座る。レイラとヒルダはリンダの対面のソファー――バイラルの両隣に座った。早速バイラルにしなだれかかっている。リンダのこめかみに青筋が立った。
そうこうしているうちに、ソファーの前のテーブルに紅茶の注がれたカップが人数分並べられる。「どうぞ」と侍女に言われ、リンダはそのまま一口飲み――
「おいしい……」
「うんうん。味の違いがわかる人とは話が合いそうだ」
思わずそうこぼしてしまう。バイラルはニコニコとしており、とても嬉しそうだ。
いけない! またペースを握られる! と焦りを感じたリンダは、こほんと可愛らしく咳払いをすると、話を切り出した。
◆
「いつになったら私を元の場所に返してくれるんです?」
「あぁ、その話か。最初に言った通り、君が協力を受けてくれるならいつでも。――でも、君のことは気に入っちゃったから、できればここにいてほしいなぁ」
「バイラル様!」
「また浮気ですか? 悪いのは“これ”ですか?」
「い、痛いヒルダ! ほんとうに! やめ――」
ヒルダがバイラルの急所を本気で握り締めており、バイラルから威厳やオーラが消え去っていた。バイラルは案外、尻に敷かれるタイプなのかもしれなかった。またもペースを乱され、ハッとしてリンダは咳払いをする。
「――んんっ! ……それで、“協力”というのは、あなたのいい噂をまくってことですね?」
「そういうこと。できるだけ多くの人に」
「なぜそんなまわりくどいことを?」
「私達魔族は人間に恐れられているからね。君達人間から聞いた方が信じられるだろう?」
「聞きたいのはそういうことじゃありません。人間と仲良くしたいなら、ここから出て一緒に暮らせばいいじゃないですか」
リンダがそう言うと、呆れたようにレイラがため息をついた。
「『魔族を滅ぼせ!』って、異世界人をけしかけてくる人達といきなり仲良くなんて無理よ。――それに、バイラル様や私達は、ただ静かにここで暮らしたいだけ。別に仲良くしたい訳じゃないのよ」
「そうでした! その“異世界人様”を一人殺したじゃないですか! そんなことをするから――」
「バイラル様はやってな――」
「ヒルダ、いいよ。――そうだな。君は、自分を殺しに来た人を、そのまま返せる?」
「そ、それは――」
「そういうこと。放置しておけば、自分だけじゃなく、自分の大事な人にも危害が及ぶかもしれない。私はこう見えて、皆の主人だからね。それは見過ごせないさ」
そうまで言われると、リンダも押し黙ってしまう。
「でも、殺すのはやり過ぎなんじゃ……溝が深まるだけです」
「君達が異世界人を裁けるなら返してもよかったけど、魔族退治にけしかけるくらいだ。そんなことしないでしょ?」
正論を返され、またもリンダは返す言葉を失う。
「まぁ、戦争してたんだから、すぐに分かり合えるとも思っちゃいない。気が済むまでここにいてよ。――あ、妻の座ならまだ空きが――」
「バイラル様。――少し、お仕置きが必要ですね?」
「レイラ。私もやる」
「ちょ! ――えっ!? “半分”は冗談……あっ――!!」
バイラルの公開お仕置きが始まってしまったので、悲鳴を背にリンダは部屋を後にした。




