第207話 ファティリタス復興編 【第3クール】 魔族は危険?
――北東の集落――
「さっきはごめんなさいね。アルトといたからてっきり厄介な人達なのかと思ったの」
「おい。いくらなんでも酷くないか?」
「いえいえ! アルトは勝手についてきただけです! 俺達も迷惑してて……」
「おい。そこまで言うか?」
「ですよね……ご苦労お察しします」
アルトに苦労する者同士通じ合うものがあった。俺達とコルムの姉――ターニャは急速に距離をつめていた。
「こんなところで立ち話もなんです。うちにいらっしゃいませんか?」
「ありがとうございます。ぜひ!」
「お~い……無視は酷くね? 泣くぞ? 泣いちゃうぞ?」
俺達はターニャの後についてテントの中に入っていった。後にはコルムとアルトが取り残される。
「あ~……うん。頑張ってね!」
コルムはアルトにそれだけ言うと、テントの中に入っていった。アルトの頬を水のしずくが濡らした。
◆
「なるほど。南西の集落にも来ていたのね。しかもリンダが……」
「面識があるんですか?」
「ええ。何度か遊びに行ったことがあるもの。お友達よ」
ターニャが懐かしそうに言う。ターニャは気さくで周りへの気遣いも上手いから、似た者同士、リンダとは相性がよかったのかもな。
「それで、先程の口振りだと、この集落にも魔族が来たんですね?」
「来たわよ?」
ターニャが何事も無いように言う。それを聞いたアルトが一瞬ポカンとした顔をした後、真っ赤に染めてターニャを追求しだした。
「仲間を“生贄”に差し出しておいて、なんだその態度は!!」
「生贄? そんなんじゃないわよ。ただ、集落の住人が一人、魔族の城にお呼ばれして、もてなされただけよ。今はもう帰ってきてるわよ? それも上機嫌でね」
「はぁ!?」
こればかりは、俺達もポカンとした。ギギギという感じでジェシカに振り向く。
「な、なによ……?」
「魔族の幹部、バイエルはスゴく危ない奴なんじゃなかったっけ?」
気まずそうにそっぽを向くジェシカ。俺は思わずトゲトゲしい言葉をかけてしまう。
「な、なによ!? 私が悪いって言うの!? アルト達が“生贄”とか言ってたし、あんただって、知り合いが殺されたって言ってたじゃない!? それに、私はおばあ様から聞いた話を伝えただけよ!!」
あ、ジェシカがキレた。確かにな。ジェシカの立場からしたら、当然危ない奴だって思うよな。俺だってそうだったし。
「おい。ジェシカに文句とかいい度胸だな」
あ、ランディもキレた。ここは素直に謝っておこう。
「悪かった悪かった。すべてアルトが悪い」
「ふざっけんなよお前!?」
アルトが憤っているが、気にしない。だって俺達、こいつらに嘘をつかれていたことになるし。――正確には、アルトの集落の長老や有力者かな? まぁいいや。細かいことは気にしない。
「じゃあ、そのうち帰ってくるんじゃないか? リンダも」
「そうね。――あ、ただ、その魔族の幹部って結構モテるタイプみたいで、人間の妻を何人もはべらしてるらしいから、そっちの意味で大丈夫かしら? リンダ、結構な器量よしだし」
「はぁ!? 人間の妻ぁ!?」
アルト発狂。俺達も再度ポカンとした。
「うちの集落から城に行ってきた娘がそりゃあもう絶賛しててね。なんかもう、魔族とか気にならないくらい好きになってて。――妻達に睨まれてスゴスゴ帰ってきたみたいだけど」
「リ、リンダに限ってなびくわけないだろ?」
「おい。声が震えてるぞ?」
アルト、顔面蒼白だった。リンダが別の意味で危険と知り、いてもたってもいられなさそうだ。
ともかくも、危ない奴じゃないらしいと知って、俺は胸を撫で下ろすのだった。




