第205話 ファティリタス復興編 【第3クール】 目的は?
――東エリア・集落・アルトの家――
「さて、どうしたものか……。魔族の幹部とは聞いてたから大物だとは思ってたが、吸血鬼かぁ……」
「た、助けてくれるよな!? リンダが殺されちまう!」
ユウスケとしてもそうしたいのは山々なのだが、死んでしまっては元も子も無い。現に、第4校の生徒は一人そいつに殺されたと聞いているのだから。
言葉通りの“死”だ。俺達異世界からの転移人は死んでも中央都市の神殿で復活させてもらえるが、そいつは魂を操れるだかで復活が阻害されてしまうのだ。
そもそもここに来たのは情報収集が目的だった。俺達の担当はここ東エリアとは違う南エリア。隣接していることもあり、自分の担当エリアにもいずれ危害が及ぶのではないかと心配して様子を見に来たのだ。決して慈善行為ではない。ましてや、魔族の幹部を打倒する勇者的行為などでは。
ジェシカがかつての勇者パーティの末裔というのは伏せておいた方がいいだろうな。ジェシカ自身もそれを理解しているのだろう。俺とアンリさん以外には明かそうとしていない。まぁ、俺とアンリさんがそれを知ったのも会話の流れで偶然ではあったのだが。
俺は岐路に立たされて、正直悩んでいた。人質となり連れて行かれたリンダさんを本当に助けに行くか、バッサリ諦めて自分や仲間の安全を優先するか。
そんな沈黙を耐えかねてか、声を上げる者がいた。
◆
「そもそも“人質”というのは本当なのでしょうか。“生贄”とも言ってましたっけ? 魔族がこの集落に要求したのは、本当に“人質を寄越せ”で間違いないのでしょうか?」
アンリさんだった。おずおずと手を挙げて皆に疑問提起する。
「リンダが実際に連れ去られているのに今更何言ってるんだ!!」
「落ち着きなさい。アンリが聞いているのはそういうことじゃないの。“人質”を寄越せというからには目的があるはず。それこそ、反抗の意思をそぐというような。――でも、相手が本当に魔族の幹部バイエルであれば、そんな回りくどいことをするとは思えないわ。だって、こんな集落、簡単に滅ぼせそうですもの」
ジェシカの言う通りだろう。何故人質を一人寄越せというのか。こんな小さな集落、強力な魔族なら容易くねじ伏せられるだろう。食料として確保したいなら、その後に何人か間引いてくればいいだけだ。
「そ、それは……」
「最初に魔族が来た時にメッセージを聞いたのは誰?」
「長老様と集落の有力者だ」
「長老ってあの白髭のおじいさんか?」
「ああ」
どうやら集会所に集められた時にやたら俺達にグイグイ迫ってきたじいさんみたいだ。――信用ならないなぁ……。
「お前はそのお偉方から話を伝え聞いただけなんだな?」
「そうだけど……疑ってるのかよ!」
「ああ、そうだ。こちらも命を懸けてるんだ。慎重に判断するのは当たり前だろう?」
ぶつくさ文句を垂れるアルトに、「文句があるなら一人で行け」と言うと押し黙った。――しかし、これ以上どうやって情報を集めればいいだろうか。
「この集落の近くに他の集落は無いのか?」
「北東に一つある。歩きで半日もかからない距離だ。――まさか、行くのか? 時間が無いんだぞ!?」
「だから何で偉そうなんだよ。お前達は最初から俺達に頼ってばかりで。集落の中でもリンダさんに頼って。少しは自分でも考えて動け!」
時間が無いのもわかっている。だが、もうこの集落では、まともな情報収集はできそうもない。アルトはショックを受けた様に俯いているが、構っていられない。
なので俺達は、更なる情報収集のため、急ぎ北東の集落とやらに向かうことにした。




