第202話 ファティリタス復興編 【第3クール】 魔城
――魔城――
光が消え、まずリンダの目に映ったのは、先程の廃城とは比較にならぬ程立派な城だった。足元には、先程廃城で乗った魔法陣と同じ模様が描かれている。どうやら、この魔法陣は転移するためのものだったようだ。魔族二人の言葉から察してはいたが。
部屋を出て、魔族に連れられ廊下を進む。今はもう魔族に脇から抱えられていない。もう逃げようがないというのは、魔族にも、そしてリンダにもわかっていた。だから拘束は不要なのだった。
視線を落とすリンダの目には紅いカーペットが映る。カーペットに汚れは無く、よく手入れされているのが見て取れる。長い廊下の先にまで敷き詰められている。
視線を上げ両側に目を向けると、等間隔に部屋の扉があり、ところどころ、薔薇を活けた花瓶が机に備え付けられていた。壁にかけられた、だいだい色に灯る照明も上品さを醸し出しており、ここの城主の気品の高さをうかがわせた。
リンダは集落に生まれ、他の人間の居住地にはほとんど足を運んだことが無い。ただ、幼い頃両親に読んでもらった絵本では、今見ている光景があった気がする。――あれは、どこかの国のお城だっただろうか。憧れてはいたが、お金持ちの世界で自分とは無縁だと思っていた。
まさかこんなことで自分がそこに立ち入るとは思いもしなかった。もっと別の機会に来たかったものだ。リンダは魔族にバレないよう、小さくため息をついた。
◆
「ここです。念のためもう一度言います。くれぐれもバイラル様に粗相の無いように」
大扉の前に着く。魔族が振り返って投げ掛ける忠告にリンダは黙ってうなずく。それを見届けた魔族が大扉をノックした。
「バイラル様。西の集落の人間を連れて来ました」
「入りなさい」
部屋の中から声が聞こえて来た。青年のソレに思えたが、魔族の幹部であることには違いない。リンダはこれまでの人生で一番の緊張を感じながら、扉が押し開けられるのをただ見ていた。
そして、大部屋の中の光景を見て、リンダは驚きに目を見開いた。




