第19話 奴隷売買
「じゃあ、休憩もしたことだし、再開するわよ!」
コスプレ女あらため、ユイが言う。
「次は?」
優しい世界がいいな。
「今回は、異世界見学に行ってみようか」
お、なにそれ楽しそう。
「他の転生者が何してるのかを端から覗いてくるだけだけどね。あまり干渉しちゃダメよ?」
へぇ、面白そうだな。確かに、あんま他人の転生人生を直接見るなんて無いからな。
「じゃ、行ってらっしゃい」
扉の向こうに背中を押された。
……あっ! 扱いがよくなってる!
◆
ここはファンタジーの世界だな。
どこかの広場みたいだが……
広場には、みすぼらしい衣服に身を包んだ母子がいる。
杭に鎖で繋がれてるようだ。
「さあさあ、見てらっしゃい寄ってらっしゃい! 今日、売りに出す奴隷はご覧の通り、親子でございます。母も娘も色白で健康、まるで透き通る雪のよう! 容姿もよく、大変お買い得となっております」
母子の近くにいる奴隷商らしき男が声を張り上げる。
通行人も興味深そうに集まっていく。
異世界恒例の奴隷売買だ。実際に見ると胸糞悪すぎて怒りがこみ上げてくるな。
今回、俺は傍観者だから手出しできないし、当事者だったとしても、奴隷制度の廃止は非常に難しい問題なんだけど……
「その奴隷、買った!」
人垣から、一人の男が前に出た。周りと装いが違う。あれが転生者かな?
「おお! これはこれは国王様。お気に召されましたか?」
国王かよ、すげぇな。うらやましいぜ。
「いくらだ?」
「母子合わせて金貨6枚でございます」
男は金貨を取り出し、奴隷商に手渡した。
「またどうぞご贔屓に!」
奴隷の母子を連れる男を、奴隷商は笑顔で見送る。
……え? それだけ?
「ただの上客じゃねぇか……」
国王だったら、奴隷制度の廃止とか、もっとやりようはあるんじゃないのか? こんなことを考えるのは、俺の経験が足りないからなんだろうか?
――視界が暗転する。
◆
「……」
俺は珍しく黙りこむ。どうすればよかったのかと。
「難しい問題よね。差別の撤廃と代わりになる労働力の確保。現実社会でだって、形は違えど、不遇な環境で働いてる人はいくらでもいるし」
俺みたいなブラック会社員とかな。いや、俺のはただ、努力が足りなくてそこしか入れなかっただけとも言えるが。
でもあの母子は努力がどうとかの次元でもなく、奴隷として、商品として扱われていた。あの母子に俺は何をしてあげられただろうか……
「あの転生者がただの上客だったとしても、少なくともあの母子は救われたかもしれない。だけどやっぱり俺は、制度自体の廃止に向けて何かできないかを考えていきたい」
俺なんかが、何をどうすることもできないかもしれないけど……そう考えちゃいけないなんてこともないはずだ。
「今すぐに答えを出せなくても、そう考えて、少しでも改善に取り組むのが大事だと思うわ」
そう俺に言うユイは、どことなく嬉しそうだった。
ステータスカードに反応がある。
優しさを1上げてくれていた。
今回は考えさせられたな……
【現在のステータス】
優しさ 7、勇気 7、面白さ or いいこと 4




