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098 墓参

 クリスの母親の墓参を終えるとクリスと侍女のメアリーと共にクラウディス城に戻り、一緒に少し早い昼食を摂った。


「墓参のこと、改めてお礼を申します」


 クリスは俺に頭を下げ、礼を言う。クリスは続ける。


「あのように心がこもったお参りができまして良かったです」


「私の方からもお礼を申し上げます。奥様もさぞやお喜びだと思います」


 クリスの隣にいた侍女のメアリーも頭を下げてきた。


「いえいえ、クリスも一緒にやってくれましたので・・・・・」


「グレンがあのようにしていなければ、私もあのようには・・・・・」


 俺の言葉にクリスは返してきた。クリスの母の墓石を俺とクリスで黙々と拭く。実に不思議な感覚で、説明しようもない。ただ、お参りができたという充実感がそこにはあった。


「どうしてあそこまでなされたのてすか」


 侍女のメアリーが俺に問いかけてくる。メアリーの雰囲気からも分かるのだが、相当長く、いや人生の殆どをノルト=クラウディス家に仕える暮らしをしているのは間違いない。確かトーマスやシャロンが三歳から仕えていたはずなので、それと同じぐらいから仕えているのだろう。そのメアリーが聞きたがっているのだ。俺は素直に答えることにした。


「以前令嬢に名前の件を問う事がありまして、その時に失礼な応対を・・・・・」


 俺はどうして『セイラ』という名が入っているのかと問い正したのだが、クリスが目を潤ませて「母の名です」と答えてきたのを見て、申し訳ないことをしたと思っていた事を話した。


「そのような事がございましたか・・・・・」


「ですので、そのお詫びを奥様にできて安心しております」


「グレンはそのように・・・・・」


 そう言うと突然クリスが涙を流し始めた。側にいたメアリーがすぐさまハンカチを取り出して、クリスの涙を拭く。


「お嬢様。お参りできまして本当に良かったですわね」


「はい・・・・・」


 まるで俺にはメアリーとクリスが本当の親子のように見えた。この二人はそれぐらい長い関係を結んでいるのが分かる。しばらくしてクリスが落ち着くと、メアリーは話し始めた。


「お嬢様が奥様の名を継がれたのは、奥様に安心していただくためだったのです」


 クリスの母親セイラは病床に伏し、亡くなる直前まで末娘クリスのことを気にかけていた。クリスは自分一人でも大丈夫だからと、母の名前を自身の名とすることを伝えて励ましたそうだ。するとセイラは安心したように息を引き取ったのだという。俺が思っていた以上に悲しく、そして気高い話だった。


「今日お墓参りをしまして、私が行ったことが誤りではなかった事がわかりました。母にやれることはやった、最善を尽くしたという気持ちになりましたから」


 クリスは目を潤ませながらも晴れやかな顔でそう言った。この心境に達するまでおよそ二年かかっている。人が傷を癒やすには、やはり相応の歳月が必要なのだ。


「私もこのような日を迎える事ができまして嬉しく思います」


 メアリーは改めて頭を下げてきた。メアリーは姓をパートリッジといい、クリスの母セイラの侍女として仕え、クリスと接していたという。まさにこの手の小説などに出てくる「ばあや」という存在。今は侍女長付きとして、侍女候補の指導を行っているとの事である。そのメアリーとクリスからノルト=クラウディス家の話をひとしきり聞いた後、俺はクリスに指輪の事を聞いた。


「ところで『女神(ヴェスタ)の指輪』がある場所はどこなんだ?」


「ここですわよ」


 クリスは持っていたポシェットから地図を取り出して俺に見せた。


「!!!!!」


 俺は渡された紙を見て絶句した。ノルデン全土地図だったからである。そしてクラウディス地方のところにバツが付けられていた。


「クリス・・・・・ これだけか?」


「はい、そうです」


 屈託なく返事をするクリス。ちょっと待て。これでどうやって『女神(ヴェスタ)の指輪』を見つけ出せというのか!


「難しいのですか?」


 俺の顔を見ながらクリスは聞いてきた。おそらく俺が困った顔をしているからだろう。それを見たメアリーが地図を覗きこんだ。


「お嬢様・・・・・ これではどこか分かりませんわ」


「ええ、どうして。地図には印も付いているではありませんか」


 クリスは本気でこの全国地図で場所がわかると思っているようだ。普段あれほど頭の回転が速いのに、どうしてこんなに残念なのだ? 


「お嬢様。この地図では、印のある場所がクラウディス城の周りなのか、サルスディアの街の周りなのかすら分かりませんわ。お嬢様はお分かりになりますか」


 メアリーに促されて地図を見るクリス。暫くしても地図を見るクリス。ひたすら地図とにらめっこするクリス。


「・・・・・分かりません」


「ですのでアルフォードさんが困っておいでですの」


「グレン・・・・・ ごめんなさい」


 メアリーに指摘されてしおらしくなってしまったクリスは俺に侘びてきた。しかしクリスに悪気があった訳でもないわけで、別の方法で『女神(ヴェスタ)の指輪』がある場所を調べるしかない。


「申し訳ないがサルスディアに詳しい者がおられますか? 馬車をお借りして調べてまいります」


「そのような事であれば・・・・・ 暫くお待ち下さい」


「あ、馬車は一番悪い馬車を。ノルト=クラウディス家の馬車と分からぬもので」


 メアリーは一瞬怪訝な顔をしたが、表情をもとに戻すと一礼して部屋を出た。クリスが申し訳無さそうに謝ってくる。


「ごめんなさいグレン。手間を取らせて。私も行くから」


「いやクリスは城で待っていてくれ。行く場所がイマイチのところだから」


 俺の静止に不満気なクリス。いや、あそこは令嬢を連れて行くような場所ではないから。


「だから一番悪い馬車じゃなきゃダメなんだ。クリスのような身分の人が行くところじゃない」


「・・・・・分かりました。そのような事情があるようでしたらお待ちします」


 クリスは納得してくれたようである。そんなやり取りをしていたら、部屋にメアリーが戻ってきた。


「フィーゼラーよ。この者をお付けします」


「クラウディス騎士団に属しております衛士フィーゼラーです。メアリー様よりお申し付けの用件、承りましたのでよろしくお願いします」


 礼儀正しく頭を下げる茶髪の青年衛士に挨拶した俺はその場から立ち去り、フィーゼラーと共にサルスディアの街へ向かった。俺の注文通り、ノルト=クラウディス家の紋章が付いていない、二人乗りの屋根なし馬車で。


「あそこへは少し・・・・・」


 車中で俺が目的の場所を伝えると、フィーゼラーが及び腰となった。戸惑うのも無理はない。あそこは世のならず(・・・)者が出入りする場所だ。フィーゼラーのような名門貴族の衛士が関わることなど、まずないところ。


「だから平服を着ろと・・・・・」


「そうだ。対して俺は商人。そういう場所に出入りするのは慣れている」


「はぁ・・・・・」


 冒険者ギルド。ファンタジー小説やその手のゲームなどではメジャーなギルドだが、エレノ世界ではろくでなし(・・・・・)ならず者(・・・・)たむろ(・・・)する場という扱い。怠惰な人間が集う場所とされ、ギルド世界でもその地位は低い。『金融ギルド』加入の件でも真っ先に爪弾きにされていたぐらいだ。


 ただ様々な稼業、請負仕事の斡旋を行っているのもこの冒険者ギルドで、乙女ゲーム『エレノオーレ!』でもこのギルドで仕事の斡旋をしてもらう。まぁそんな場所にヒロイン、アイリやレティを出入りさせるのはどうかと思うが・・・・・ それもゲームの設定、エレノ製作者の気まぐれだろう。そこを考えるのはナンセンスだ。


 サルスディアはクラウディス地方の中心地であると同時にノルト=クラウディス公爵領の首府でもある。クリスの生まれたクラウディス城の城下町として栄え、イードン伯が執権を務めているサルス・クラウディス行政府が置かれている。


 街の規模はノルデン第五の都市ムファスタに匹敵する規模で、貴族領の街としては最大である。街中は全体的に整備されており、馬車で走っている限りだが、狭小路は見当たらない。その街の外れに目的の場所はあった。その場所に到着すると、フィーゼラーを「待つように」と残して、俺はサルスディア冒険者ギルドの中に入った。


 俺がギルドの建物内に入ると、もう一枚のドアがあった。冒険者ギルドなど一部のギルドは安全策であろう、このように二重ドアでみだりに人を中に入れないようにしている。そもそもギルド自体が閉鎖的だから、余計にそうなるのだが。ドアをノックすると、目線だけが見える確認窓がスライドした。


おたく(・・・)は?」


「グレン・アルフォードという。情報を買いに来た」


「アルフォード? あのアルフォード商会の人間か! あ、証はあるのか?」


 俺は王都ギルドの紋章とアルフォード商会の紋章が一体化した紋章が刻まれたブローチを取り出して、確認窓の前に掲げた。以前ザルツが送ってくれたものだが、まさかクリスの故郷で使うなんて思ってもみなかった。


「息子だ。何かあるか?」


「いや、分かった」


 ギギギと音を立てながら、サルスディアの冒険者ギルドのドアが開いた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 原作ぶちこわしですね。 今はこの世界が現実なのだからこれで良いんですよ。 [気になる点] 墓石?をきれいにしただけで喜び方が大げさではないでしょうか。 そういう文化、風習がなかった所で、い…
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