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643 王都上洛

 サルンアフィア学園は貴族学園。何を差し置いても貴族社会で起こった「事件」が優先される。現に小麦暴騰の際には、平民の生活苦よりも小麦相場の方に目が行っていた訳で、その辺りの感覚は市井の者とは全く違う。それは人の感覚なので仕方がない話だろうが、ここまで魔導書の話に関心が持たれていないとは思わなかったので、拍子抜けだ。


 関心がないのは俺が魔導書の閲覧をするのを知っているアイリとレティも例外ではなかった。アイリは魔導書の話よりも、クリスが王宮図書館から借りてきた魔法本の方が重要だったようで、クリスが渡してくれたと喜んでいる。何でも昨日、女子寮にある談話室でクリスと会って、貸して貰えたらしい。


 俺とトーマスが話している間にそんな事をしていたのか。一方、レティの方はそれどころではない。レティの父親であるエアリスが王都へ来ると言うのである。ダンチェアード男爵からの封書によれば、エアリスに対し、子爵家から支給されていたカネが俺に差し押さえられた旨通告をしたところ、血相を変えてリッチェル城へと乗り込んできたらしい。


 払え払えと家から支給されているカネの支払いを要求してくるエアリスに応対したダンチェアード男爵は、エアリスの債権者と夫人の間でエアリスへの支給分全額を支払いに充てる事で合意が成立しており、それをこちらは実行しているだけと主張。その上で内容等については債権者に直接話して頂くしかないと伝えた。


 これに激怒したエアリスは、王都に向かうから馬車を用意するよう要求。これにダンチェアード男爵は一度は断るもののエアリスに  夫人、レティの兄でエアリスと同じく支給されているカネを押さえられたドボナード卿。離縁して子爵家へ舞い戻るも、城へと入れてもらえなかった姉の元パリタス男爵夫人が加勢。


 結局、ダンチェアード男爵は折れて、王都行きの馬車を用意。四人は仕立てられた馬車に乗り込み、一路エルダース伯爵邸へ向かったという。しかしまぁ、ここまで予想通りの動きをしてくるとは。全てレティの読み通りの展開なのだが、あまりにもハマり過ぎて呆れさえも通り越して、失笑しか出てこない。これについてレティが話した。


「一度断れば、四人が徒党を組むと思っていたのよ。だから一度は断ってって」


 横で聞いているアイリがポカーンとしている。レティの家族の無法っぷりに呆れているのか、レティの鋭い読みに驚いているのか分からないが、いずれにせよ唖然とする話なのは間違いない。そんなアイリがこれからどうするのと聞いている。それを受けて、レティは「そうねぇ」と腕組みをすると、困ったという表情を見せる。


「先ずはエルダース伯爵邸から追い払わないと・・・・・」


 明日に伯爵邸へ向かって、エルダース伯爵夫人に事情を話し、ホテルに案内をしてもらうという。俺はどこに案内するのかと聞いた。


「ディアス・アレーダでいいんじゃない」


 ディアス・アレーダか。平民向けホテルだな。日本で言えば一般的な民宿に相当するグレード。しかしそんな所に案内して、エアリス達が収まるのか?


「ディアス・アレーダはしっかりしているところよ」


「レティは知ってるのか?」


「ええ、何回も泊まったから知っているの」


 意外や意外。貴族の娘が止まるグレードではないディアス・アレーダを使っていたなんて。レティによると部屋は広くはないが、手入れも行き届いているし、設備に過不足はない。それに普通に寝られるわと話した。ただ問題は設備内容ではなく、リッチェル家のやらかし四人衆が納得するかどうか。しかしレティは、意に介していないようだ。


「勝手に借りたお金のツケを家に回しておきながら、支払いを止めたと馬車を用意しろなんて、虫が良すぎると思わない? その上、エルダース伯爵邸へ勝手に押しかけて泊まろうなんて、本当に自分勝手!」


 レティは語気を強めた。全くだよな。自分のやらかしでカネを止められたのに、逆ギレして馬車を用意しろって。元当主なんだから、自分のケツぐらい、自分で拭けよという話。どうせこちらに泊まる費用なんて支払うつもりもないでしょうから、泊まる所なんかでとやかく言われる筋合いなんてないわと、レティが言う。


「問題はホテルに泊めた後よねぇ。どうするの?」


「場を用意しなきゃいけないな」


 俺はそう答えた。実はレティとは、エアリス達を子爵領から出して、王都に来させるという話までしかしていない。その後の話はもう決めてはいるのだが、今はアイリもいるし、その時じゃない。先ずはレティの父であるエアリスと兄のドボナードに対して、俺が債権者である事を認識させなければいけない。


「俺からの請求書をホテルの部屋に置くのはどうだ?」


「まぁ!」


「宿泊代、馬車代を含めてな」


 エアリスとドボナード卿だけではなく、母のアマンダと姉の元パリタス男爵夫人にもそれぞれ請求書を出す。その為には宿泊にかかる費用一切は俺が持たなきゃいけない。レティには馬車代をこちらに回しておくように話した。するとレティは家の持ち物だし、これ以上俺に負担してもらう訳にはいかないわと遠慮する。 


「請求する為には要るんだよ。架空で請求なんてしたら、後でケチが付くかもしれないからな」


 言い値で請求するという身勝手な方法もあるが、そんな事をしたらエアリスの家へ勝手にツケ回しとさして変わらない。最低限、向こう側よりはモラルを守って仕掛けないと、同レベルになってしまう。人間というもの、落ちるのは早い。なので、せめてその程度のタガぐらいは嵌めておかないと、どんどん暗黒面へ落ちていきそうで、正直怖い。


「分かったわ。それはこちらで用意するわ」


「じゃあ、こっちも請求書を用意するから、ホテルの方に届けてくれ」


 俺が言うと、レティが頷いた。ここでエアリスら家族が、伯爵へと陞爵(しょうしゃく)するミカエルにたかる(・・・)のは目に見えて明らか。これではいくら所領が増えようとも、レティとミカエルの悩みはより深まるばかり。リッチェル子爵家のガラクタ一行を一網打尽にしなければ、今回の話がより増幅されるだけだろう。


 ――俺はサルンアフィアの魔導書の件で、コルレッツに封書を送った。以前、王宮図書館で閲覧できたら、その内容を教えて欲しいという返信があったからである。なので、トーマスとの話し合いを踏まえ、それに沿った形の内容を知らせた。だが、コルレッツにとって重要なのは、おそらくは俺と同じ。


 それは現実世界に帰られるか、帰られないか、という点であろう。結論から言うなら「帰られる」。サルンアフィアは日記の中で、現実世界への(ゲート)が開く過程について、具体的に記述していたのだから間違いない。昼間に空が赤く染まる「達成の空」という兆候について、ハッキリと記しているのだから。


 満月の夜には霧のようなもや(・・)が発生し、現実世界が見える。ケルメス宗派の創設者、ジョセッペ・ケルメスはそう書き残していたのだが、サルンアフィアの魔導書には、そういった記述はなかった。というか、そこで終わっている。考えても見れば、これから帰るのに、その模様なんて書ける筈もない。


 だから、逆に書いていない方が信憑性が高まる。書かれていたら、どうやって書いたんだ拓弥? って話になるのだから。その点において、サルンアフィアの魔導書の価値は大きい。俺が実際に帰ってきたヤツ、サルンアフィアと会っていたという事実は、帰りたがっていたコルレッツも喜ぶだろう。


 そのサルンアフィアの魔導書について、アイリやレティからあれこれ聞かれる事は無かったが、クリスとなるとそういう訳にはいかない。俺から然るべき話を聞こうと、わざわざ一席を設けて来たのである。しかも同席者が従者のトーマスとシャロンだけという、限りなくサシに近い形。いつもだったら誘うアイリやレティもいない。


「今日はグレンから、王宮図書館でのお話を改めてお聞きしたいと思います」


 クリスは神妙な面持ちでそう述べた。同時に、その話はお食事をしてからという事で、トーマスに目配せする。トーマスが個室のドアを開けて程なく、コース料理が運ばれてくる。これから裁きを受ける被告人みたいな感覚はなんだ? 食事の間どうすれば良いのかと思案していると、クリスの方から話しかけてきた。


「アイリスが非常に喜んでくれましたわ」


「王宮図書館で借りた魔法の書だな」


「ええ。以前からお話をしていました本がようやく渡せました。アイリスは本当に熱心です」


 微笑みながらそう言うクリス。そうなんだよなぁ、アイリスは基本的に真面目だし、熱心に勉強するよな。それはクリスも同じなのだが。真面目で勉強熱心というのは、二人の共通項。勉強に全く熱心ではない俺とは大違いだ。魔法の書の話について、あれこれと話すクリス。いつもと変わらないクリスだ。


「日記とのお話でしたが、どのような内容でしたか?」


 俺が油断していると、いきなり本題に入ってきた。こういう辺りの駆け引きは本当に上手い。というか、クリスの能力に舌を巻いている場合ではないので、トーマスとの打ち合わせ通りに魔導書の内容について話した。私塾設立に至った話や、モルト教。そしてサルジニア公国との結界。もちろんモルト教と結界に多くの時間を割いたのは言うまでもない。


 クリスはモルト教の話にあまり興味を示さなかった。これは予想外。一方で読み通りだったの結界に対する関心。クリスは魔法の発動方法について聞いてきたが、具体的な話が魔導書に書かれていなかったので答えようがない。俺が言葉に詰まっていると、クリスが「先日、車上でも言われてましたね」と諦め顔を見せたので申し訳ない気持ちになった。


「それよりも・・・・・ どうしてサルンアフィアがグレンの親友だと分かったのですか?」


 いきなり直球を投げつけてきた。クリスがこちらの方を真正面から見てきたので、クリスが聞きたかったのはやはりこれか。何かキラーパスを送られたような心境。備えあれば患いなしとはこの事。俺はすぐさま、ロタスティの個室でトーマスと練っておいた想定問答を持ち出して、サルンアフィアが相沢拓弥(たくや)だと確信した経緯を話したのである。


※お知らせ


昨日、この話を以って更新を一旦停止と告知を行ったのですが、もう一話を明日、あるいは明後日に更新しようと考えております。体力的にいけるかどうか。とにかくやってみます。


琥珀あひる

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Copyright(C)2021-琥珀あひる
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― 新着の感想 ―
[一言] ご自宅は完成したのでしょうか?今年(2023年)も残すところ約3ヶ月弱と言った所で、そろそろ投稿の再開の目処はたったのでしょうか?
[一言] 作者さん。 もうこれを終わらせてください。 プロットはずっと前に狂ってしまった。 もはやあらすじが物語と一致していません。実際、これがこの小説が人気がない理由の 1 つかもしれません。 …
感想一覧
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