表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/643

102 指輪を目指す

 俺とクリスはシャダール郊外の二重ダンジョンの最深部を目指し、黙々と歩いた。ここまでモンスターには全く遭遇していない。俺の商人特殊能力【威嚇】の威力がそこまで強いからなのかは分からないのだが、とにかくモンスターに出くわす事がなかった。


(本当に深いよなぁ、このダンジョン)


 下りても下りても、下に続くダンジョン。下に降りると今度は通路。そして通路を抜けると広いホールに到達した。天井は高い。壁面には通路らしきものは見えない。がらんどうの空間。俺たちはダンジョン最深部に到達したようである。


「何もないわね」


 クリスが呟く。全くその通りだ。広いホール、本当に何もない。サルスディアの冒険者ギルドにいたビリケン男ペルナが言っていたドラゴンなんてどこにもいない。話と違う。床を見ると何やらサークルが描かれている。違う色の石を敷き詰めて描かれた幾重ものサークル。誰なんだろうか、こんな深い階層に手をかけた人間は。


(どうなってんだ?)


 そう思っていたら、突然サークルの中にドラゴンが現れた。閃光とか白い煙とか轟音とか、そういった前触れは何もない。いきなり茶褐色のドラゴンが目の前に現れたのだ。ないコマとあるコマが張り合わせたように、パッと現れた。体は大きい。ひと目でドラゴンだと分かる生き物。よくあるドラゴンの絵に似ている。


(はぁ?)


 あまりに突然の事で呆気にとられた。足がすくむとかではなく、何が起こったのか分からないので足がついていかない感じだ。しかしまさかドラゴンの実物を見るなんて思ってもなかった。


「ク、クリス。後ろ、に」


 やっとのことで声を出すと、クリスも俺と同じ感覚だったらしく、「え、ええ」と返事して後ろに下がった。俺はすぐさま商人特殊技能【防御陣地(ディフェンシブ)】を発動した。


「・・・・・す。すまんが『女神(ヴェスタ)の指輪』を譲ってくれないか。もらったら帰るから・・・・・」


 俺は少し上擦った声でドラゴンに語りかけた。ダメ元でも言わないよりマシだと思ったからだ。


「グレン・・・・・ それは」


「言うだけならタダだから・・・・・」


 クリスと俺は顔を向き合わせた。クリスは鋭い目つきで言った。


「魔力を渡して」


 俺は「ああ」と返事してドラゴンを見た。その瞬間身体自体がふっ飛ばされた。


「おおおおおおおお」


 一気に七割のダメージを受けた。ヤバいヤバいぞ、これ! オリハルコン製のフル防備でこれなのか! シャロンやトーマスが来ていたらホントに一発アウトだ。俺はすぐさまハイエリクサーを飲んで回復させた。そのとき、ドラゴンの頭上に巨大な火球が出現した。


(【炎の爆弾(ファイアーボム)】か?)


 そう思った瞬間火球は一気にドラゴンに落ちた。いや、違う、落ち続けている。これは・・・・・


(【炎の大滝(ファイヤーフォール)】だ!)


 いきなり最終決戦兵器で応じるクリス。見ると魔力が見る見る減っていっている。俺は即座に【渡す】で魔力を供給し、【炎の大滝(ファイヤーフォール)】の永久機関化を実行した。そのとき、ドラゴンの肉塊が俺に襲いかかってくる。


「ぐおおおおおおお」


 またもや吹き飛ばされてしまった。そうか、ドラゴンは尻尾で俺を吹き飛ばしたんだ。それだけであのダメージか。俺はハイエリクサーを飲んで回復させ、念の為【浮上】で俺とクリスの身体を浮かせた。クリスはひたすら念じ続け、【炎の大滝(ファイヤーフォール)】をドラゴンに浴びせ続けている。


 この戦いに一つ違和感があった。ターン制ではないのだ。クリスは連続攻撃したままだし、ドラゴンの動きは不定形だ。吹き飛ばされて所定の位置に戻らなくても、俺の身体は自由に動く。学園でのリング上の戦いとは明らかに違う。


(リアルタイム制・・・・・)


 そうか。リング外ならばゲームの戦闘縛りから外れるのか! しかし今それに気付いたところで、どうにかなる訳じゃない。直ぐ動かなければ! 刀を抜こうとした瞬間、俺に一つ策が閃いた。


 俺は全防備に炎の付加魔法をかけ、刀を抜いて炎に包まれているドラゴンに襲いかかった。俺自身も炎の中に入った形になったが熱くはない。ドラゴンの手で吹き飛ばされたが、防具が炎を吸収して即座に体力が回復していく。


 クリスに魔力を供給しつつ、俺がクリスが作った【炎の大滝(ファイヤーフォール)】の中に入り、そこでドラゴンと戦う。現段階でできる完璧な攻撃態勢ではないか。俺がドラゴンを引きつけることで、クリスを守ることができるし、ドラゴンの攻撃を受けても、クリスの魔法でドラゴンを攻撃しつつ、俺の体力を即座に回復させていく。全く無駄がないではないか。


 俺はドラゴンとクリスが創り出した炎の中でドラゴンと戦い続ける。ときどきハイエリクサーと【渡す】を使い、俺の魔力とクリスの魔力を回復させていく。戦いの定型業務化を構築できればこちらのものだ。ルーチンワーカーとしての俺の能力が発揮できる。戦いは単調な形で延々と続いた。


 俺は【鑑定】でドラゴンを見たが跳ね返された。跳ね返されたのは初めてだ。おそらくドラゴンの方が俺よりレベルが高い。どうやってレベルを上げたんだ? ただその割には、尻尾か前脚を使った攻撃しかしてこない。口から何か噴き出す攻撃などはない。確かに物理攻撃はキツイが陣形が構築され、定型業務化されると、そこまでの脅威ではなくなった。


 俺たちの連続攻撃は続く。ドラゴンはひたすら応戦する。かれこれ一時間近く経った。しかし終わる兆しが全く見えない。ドラゴンの体力はどこまであるのか、全く分からない状態で、俺たちは同じパターンの戦いを続けている。クリスの方を見ると俺が魔力を供給し続けているとはいえ、同じ姿勢を維持しなければならない連続魔法攻撃で相当疲れているようだ。


(そろそろ終わらせないとクリスがマズイ)


 しかし俺がドラゴンを攻撃しても効いているようには思えない。ダメージはあるのだろうが六桁の体力に三桁のダメージを与えてるようなレベルなのではと想像する。ドラゴンハンターである勇者とかそういう属性の人間じゃないと、ドラゴンには大きなダメージが与えられないのではないか?


 ただただ時間だけが過ぎていく。クリスが【炎の大滝(ファイヤーフォール)】でドラゴンを攻撃し、その火中で俺とドラゴンが戦い、俺が【渡す】で魔力をクリスに供給して、ハイエリクサーで自分自身を回復させる。ドラマや小説ならば絶対に盛り上がらないこの展開。まさにエレノらしいし、モブ以下である俺ならではの戦いだ。


(あれ?)


 フッ、とドラゴンが消えた! すると暫くして炎も消える。


(えっ?)


 ドサッという音がした。ふと見るとクリスが倒れた。


「お、おい!」


 クリスを見ると体力はある。魔力もある。大丈夫だ。なぜ・・・・・ クリスの元に駆け寄ろうとしたとき、赤く光るものを見つけた。これは・・・・・


(指輪だ)


 俺は指輪を拾ってまじまじと見た。赤い石の指輪。よく見ると赤い石には何か模様が見える。


「ど、ドラゴン・・・・・」


「そうよ。私よ」


 俺の脳内に突然女性の声が聞こえた。


「誰だ!」


「だから言ったじゃない、私だって」


 ま、まさか・・・・・


「ドラゴンか?」


「ええそうよ。でもどうして私の声が聞こえるの? 人間には聞こえないはず」


「いや、俺も人間だぞ。普通に」


「おかしいわ?」


 声の主は困惑している。今度は俺の方が聞いた。


「ドラゴンよ。今、どこにいるのだ?」


「貴方の手元よ」


「え、この指輪なのか?」


「そう。『女神(ヴェスタ)の指輪』」


 ・・・・・そうなのか。だから『女神(ヴェスタ)の指輪』を手に入れたクリスは強かったのか。ドラゴンが宿った指輪。だったら強い。


「戦いで勝ったあの女の子に付けて。私を倒した戦果よ」


「それはいいが、倒れているぞ」


「ええ。私の魂と一体化したから気を失っただけよ。時期目を覚ますわ」


 俺は安心した。クリスに何かあったら俺が持たない。しかし、魂が同化しているのに、どうして会話ができるのか。


「じゃあ、今の声は何だ?」


「思念よ」


 魂には言葉がないが、思念には意志があるということか。中々含蓄がある。誰が考えたんだ、こんな設定。そんな事を考えながらクリスの元に向かい、指輪をはめようとした。


「待って、右手の人差し指にお願い」


 ドラゴンの意志に基づきクリスの右手人差し指に指輪を通した。


「ところでドラゴン。名前はなんと言うんだ?」


「ヴェスタよ」


 まんまじゃないか! まぁいい。ひねり(・・・)を加えられてもこちらが困る。


「ヴェスタよ。これからはクリスを守護してやってくれ」


「もちろん!」


 俺が頼むとヴェスタは快諾してくれた。こうして『女神(ヴェスタ)の指輪』はクリスを主と定めたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Copyright(C)2021-琥珀あひる
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ