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東大生と魂の相棒

「おい、なんだこれは?」


 あとに残された物体を見て、困惑したようにカンジがつぶやいた。


 非常に細長く加工されたミスリルが、連結された2つの円を形成している。さらに、その円の両端からは円面に垂直をなすように2本の棒状のミスリルが伸び、それぞれの棒の先端付近は30度ほどの角度がついている。

 円の内側には、透明のガラスが入っているようだ。


 ……回りくどい説明はすまい。


「これは、メガネですね……。視力矯正具ですが、なぜこんな形に……」


 なんとも抗いがたい何かを感じ、とりあえずかけてみる。


 メガネをかけた俺の顔を見て、ナナミが手をぽんと打ち合わせた。


「あら、ヒデトシくん、よく似合うじゃない」


 当然である。

 メガネと東大生というのは、切っても切り離せないもの。

 転生前の俺も、もちろんメガネをかけていた。

 この世界でこれまでメガネをかけていなかった俺は、東大生失格だったといっても過言ではない。

 いま、ここにいたって、俺は初めて真の東大生の姿を取り戻したのだ!


 え、メガネをかけてない東大生? そいつぁモグリだよ。


 メガネを装備した俺は、そのままぐるりと周囲を見回してみた。

 カンジとナナミが興味深そうに俺の方を見ている。


 あれ、そういえばサー・ザイモンは……


 普通に考えれば、このメガネがサー・ザイモンの依代になったということになる。

 心の中にかすかに生まれたメガネに対する抵抗感を押さえ込みつつ、さらに周囲を探してみると、視界の端にキョロキョロとあたりを見回すおっさんが入ってきた。

 なんだか、赤みがかっている気がする。


「ザイモンさん、どうしたんですか?」


 俺がサー・ザイモンに問いかけると、つられてそちらの方を見たカンジとナナミが変な顔をした。

 カンジが困惑しながら俺の方を向いて問いかけてくる。


「おい、そういえばオッサンはどこに行ったんだ?」


「え、そこにいるじゃないですか」


 俺はサー・ザイモンの方を手で示した。

 カンジとナナミは再度そちらを見たが、怪訝な顔をしたまま首をかしげる。


「いないわよ」


 その答えに、俺も困惑する。

 そんな俺に、サー・ザイモンが言いにくそうにしながら話しかけてきた。


「……ヒデトシ殿。どうやら吾輩は貴殿にしか見えていないようだ」


「えっ……なんで……あっ、これか」


 はたと気が付いてメガネを上にずらしてみると、案の定、サー・ザイモンの姿が消えた。


「このメガネをかけていると、ザイモンさんが見えるようです」


 俺はそういいながらメガネをかけ直してカンジとナナミの方を振り返る。

 すると、さきほどまではまったく気が付かなかったが、二人の身体の周りに、青みがかった磁力線のようなものがうっすらとまとわりついているのが見えた。

 特に、ナナミの周りの線の密度が高くなっている。


 あらためて意識して周囲を見回してみると、景色のいたるところから青い磁力線が出ていた。

 磁力線といっても、常にゆらぎ……というより生物的なうごめきを見せており、出ては消えてを繰り返している。


 まれに大地から赤い磁力線が生じては、すぐに青い磁力線とぶつかり、閃光を残して消えていく。

 しばらく残った閃光は、なぜかもやのようにわだかまったあと、しゅるりとこちらに飛んできて、俺のメガネに吸い込まれていった。

 なかなかサイケデリックな光景だ。


「これは……」


「どうしたんだ?」


 カンジに問われて、俺は思い付きを答える。


「このメガネ、もしかしたら魔素を可視化する機能があるのかもしれません」


 そのように考えて改めて景色を見渡してみると、なるほど、すっきりと理解ができた。

 魔素が強いところはこの磁力線の密度が高く、弱いところは密度が低い。

 青が通常の魔素で、まれに生まれている赤いのは負の魔素だろう。

 俺以外から認識されず、所在なさげに突っ立っているサー・ザイモンが赤いのはそのためだ。


「え、すごいじゃない。ちょっと貸してみてよ」


 驚くナナミにメガネを外して手渡す。

 視界の端でサー・ザイモンの赤みがかった姿は消えた。

 俺からメガネを受け取ったナナミは、おそるおそるメガネをかける。


「うわわっ! 何これ!!」


 かけた瞬間、悲鳴のような声を上げて、慌ててメガネを外した。


「えっ、どうしたんですか?」


「いや、どうしたって、ヒデトシくんよくこんなのかけてられるわね……。視界いっぱいにわけのわからない線みたいなのがうにょうにょ出たり入ったり……。頭がおかしくなっちゃうわよ」


「そうですか?」


 俺はふたたびメガネをかけた。

 視界に魔力線(と名づけよう)が現れ、ついでにサー・ザイモンの姿も現れるが、俺にはそれらは補助線のように世界の理解を助けてくれるものに見え、決して不快な気にはならなかった。


「まあ、もしかしたらナナミさんは強い魔力を持っているので、刺激が強すぎるのかもしれないですね」


「それなら俺に貸してみろよ」


 今度はカンジがメガネをかけたと思ったら、ものの数秒で外してしまった。


「おえっ! 気持ち悪ぃ!」


 カンジが放り出したメガネを慌ててキャッチする。


「ちょっと、投げないでくださいよ!」


「ナナミのいうとおりだぜ。よくそんなのかけられるな……」


「おかしいなあ。そんなに気持ち悪いですかねえ……」


 俺はメガネそのものの謎の安心感もあってか、まったく不快にならなかった。

 対消滅した魔素の残した閃光がメガネに吸い込まれることや、サー・ザイモンがメガネを通して見えなくなったことなど、わからないことはいくつもあったが、このメガネは俺がかけることだけは満場一致で決定した。


「さて、これからどうしますか」


「そんなの決まってるだろう。目の前にあるのは『大森林』。11年前に新しい『大迷宮』が生まれた、すべての始まりの場所だ。もっとも、俺たちにとってはわりと最近の話だけどな」


 カンジがにやりと笑った。


「ええ、いきましょう。別に国の王様になりたいわけじゃないけれど、自分ちが預かってた国が魔王に支配されているなんて、格好悪いもの」


 ナナミも拳を固める。


「そうですねーー魔王を倒すのは、俺たち勇者の仕事です」


 俺は、最後にくいっとメガネを持ち上げた。


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