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東大生と森の湖

 その後も次々と魔物たちが襲いかかってきたが、カンジが盾で止めては殴りつけ、ことごとく退けていった。


 そうして倒した魔物の数が50体を超えようかというころ。


 ずっと暗い森の中を歩いていた俺たちの目の前が、突然ひらけた。


 まず目に入ってきたのは、キラキラと陽光を反射する水面だった。

 森の暗さに慣れた目にはいささか強い刺激に思わず片目をつぶりながらも、視線を遠くへ移して広く見渡してみれば、青く空を映す鏡のような湖面が広がり、豊かな水をたたえていた。


「うわぁ、きれいねえ」


「『大森林』の中にこんな湖が本当にあるなんてなあ」


「ザイモンさんが言ってた湖で間違いなさそうですね。ここの湖畔に大賢者の家があるということですが」


 そう。この湖こそが俺たちの目的地だったのだ。


 『大森林』に美しい湖があるなんて話は聞いたことがなかったため、三人とも半信半疑だったのだが、こうして目の当たりにすると、ちょっと感動的な風景だった。


 手前側は切り立った崖のようになっているため、湖畔に出られるところを探して回り込むことにした。

 湖を左手に見ながら、その外縁に沿って進んでいくと、やがてちょっとした砂浜のようになっているところに出た。


「おお、砂浜だ。いや、砂というか、砂利か?」


「どうやら、昔はこの湖に流れ込む川があったようですね。今は川はないみたいですが、湧き水でも湧いているのかな」


 俺はしゃがみこんで、角の取れた砂利を観察する。

 そのままかすかに残る谷筋のあとを目でたどっていくと、少し川上側に遡ったところに、水車を備えた小さな小屋があるのを見つけた。


「あれがそうじゃないですか?」


 指差しながら二人を振り返ったが、二人はいつのまにか水辺で膝を折って、水中を覗き込んでいる。

 どうやら俺の声は聞こえなかったようだ。

 仕方ないので、二人の方へ歩いていくと、ナナミが俺に気づいて振り返った。


「あ、ヒデトシくん。ちょっと来てよ」


「どうしたんですか?」


「おお、ヒデトシ。ここの湖水、飲めるかと思ってなめてみたんだが、むちゃくちゃ塩辛いんだよ」


「へえ。塩湖ですか」


 カンジに促され、俺も指先をちょっと湖水に浸けてから、ぺろっとなめてみた。


「辛っ!」


 想像以上の辛さに、思わず声を上げてしまった。


「だろ?」


 なぜかカンジが嬉しそうな顔をしている。


「これはかなりの塩分濃度ですね……。海水並みじゃないですか」


 改めて湖を見てみる。


 見える範囲では、流れ込む川もなければ、流れ出る川もなさそうだ。いわゆる閉塞湖である。


 もっとも、深い森の中なので、見えにくい小さな流れがどこかから出ている可能性は否定できないが、湖水の塩分濃度が高いことから、流出を上回る自然蒸発による成分濃縮が起こっていることが推測された。


 前世の地球で最大の湖とされていたカスピ海も、同様の原理で塩湖となっていることは有名だ。


「塩分だけじゃないわ。魔素も相当濃いわよ。もしこれを日常的に飲んでいる生き物がいたとするなら、ほぼ間違いなく魔物化するでしょうね」


 ナナミが眉根を寄せる。


「だが、こんな塩辛い水を飲んだら逆にのどが渇いてしょうがねえ。そんな動物はいねえだろ」


「えっと……ナナミさん、カンジさん、この湖で魚を見たりしてないですかね……?」


 二人は顔を見合わせた。


「そういえばさっきあっちの方で、魚が跳ねてるなって話を……」


 カンジが湖の真ん中付近を指差したちょうどそのとき、タイミングを合わせたかのように、その付近の水面に水跳ねが上がった。


「ちょっとあの水跳ね、大きくないですか?」


「そ、そうね……」


 俺たち三人は、誰からともなく立ち上がって後ずさりし、水辺から距離をとった。


 しばらく湖面の様子を伺っていたが、特にそれ以上何かが起こることもなかった。

 ゆっくりと息を吐きながら緊張を解いた俺は、さきほど見た小屋のことを思い出した。


「あ、そうだ。あっちに小屋があるんです。大賢者の家かもしれません」


「あ? どれだ? ……あー、あれだな。たしかにそれっぽいな」


「どっちかというと、賢者というより隠者がいそうな感じねえ」


 話しながら小屋に近づいてみると、小さくて年季が入っていながらも、丁寧に手入れされている小屋であることがわかってきた。

 廃屋ではなく、確かに人の住んでいる小屋に間違いなさそうだ。


「ごめんください」


 俺は小屋の戸をノックしながら中に声をかける。


 しばらく待ったが、中からは反応がなかった。


「おい、誰かいないのか?」


 今度はカンジがドンドンと戸を叩く。


 だが、やはり反応はないようだった。


「留守かしら」


 そういってナナミがドアノブに手をかけて押し引きしていると、俺たちの背後から突然声が降ってきた。


「私の家に何か用か?」


 俺たちは飛び上がって驚き、振り返った。


 そこに立っていたのは、カンジよりも背の高い、全身から水が滴る絶世の美女だった。


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