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東大生のスタント

 その後、ナナミはロックゴーレムを相手に練習を重ね、点とは言わないまでも、剣の軌跡くらいの範囲に魔力による衝撃波を飛ばせるようになった。

 相手のロックゴーレムたちは、何度も衝撃波を受けて吹き飛び、ボロボロになっていたが、ついに役割を果たしたかのように粉々に砕け散った。


「おお、あの堅いロックゴーレムが木っ端微塵だ。魔法剣ってのはすげえもんだな」


 過去に別のダンジョンでロックゴーレムと戦ったことがあるというカンジが感嘆の声をもらす。


「これだけ当てたらさすがにね。でも次からはもっと手っ取り早く片付けられると思うわ」


 たしかに今回は十回以上の攻撃を要したが、傍から見ていても、だんだんと威力は上がっているのがわかり、最後の一回は相当強力な攻撃になっていたように思われた。


「ナナミさん、怪我はしていないと思いますが、魔力の消耗は大丈夫ですか?」


「大丈夫。見た目は派手だけど、消費はわずかよ。属性も乗せてないし」


 ナナミが親指を立ててアピールする。


「わかりました。じゃあ奥に進みましょう。頼まれた灼熱鉱石はまだまだ先でしょうし」


 俺たちは、軽く水分補給を済ませると、ダンジョンの奥へとふたたび足を進めることにした。

 先頭を行くカンジが、歩きながら話し始める。


「ナナミの修行とはいえ、戦闘で何もしないってのはなんだかじれったいもんだな」


「援護ぐらいはしてもいいんじゃないですか?」


「そうね。なるべく手出ししないでほしいけど、危なくなりそうだったら援護してもらえるとありがたいわ」


「危なくなったら、ね。出番がないのはつまらんが、危ない目にも遭いたくないんだが、どうしたもんかな」


「それは諦めて」


 そんな軽口をたたき合いながら歩いている間にも、何体かのロックゴーレムが散発的に襲いかかってきていたが、そのたびにナナミが危なげなく魔法剣で倒していった。

 そうしてしばらく代わり映えしないダンジョンの通路を進んでいき、いくつめかの曲がり角を曲がると、ようやく通路のほうに変化があらわれた。


「あ、見てください。通路の先に階段がありますよ」


「ここまで来た道で合ってたみたいだな。さっそく降りてみるか」


 俺たちは、ナナミを先頭にして周囲を怠りなく警戒しながら階段を降りていく。

 これまでの通路と同様、カンテラが壁の高い位置に等間隔で並んでいる。


「これだけ明るきゃ足を踏み外す心配はなさそうだな」


「ちょっとカンジ、そういうのフラグっていうのよ」


 ナナミが振り返ってたしなめた、ちょうどそのとき。

 狙いすましたように、カンジの足下からカチッという嫌に機械的な音が鳴った。

それに呼応するように、後方、今降りてきている階段の上の方から振動と地鳴りのような音が聞こえてきた。


「ちくしょう、トラップだ! すまねえ!」

「上で何か起こってる! どうする?」


 狼狽する二人を見て、俺はなんとか気を落ち着かせて考えた。


 洞窟で怖いのは落盤だ。崩壊する岩盤に押しつぶされたらまず助からない。つぶされなくても、閉じ込められる危険もある。

 とはいえ、俺たちに取れる選択肢は進むか戻るか留まるかの三択しかない。

 閉じ込められる懸念はあるにせよ、後ろで異変が起こっているなら前に進むのがセオリーだろう。

 加えて、ここは太古からドワーフに利用され、整備されているダンジョンだ。

 このトラップを踏んだ者はいくらでもいるはずで、それでもこうして行き止まりに阻まれることもなく進んでこられたということは、このトラップによるダンジョンの変化は可逆的なものである可能性が高い。


 閉じ込められる危険性もそこまで高くないと判断した俺は、二人に急いで階段を降りるよう指示し、自分も駆け下り始めた。


「急いでください! 足を踏み外さないように気をつけて!」

「わかってるよ! 先に進んで大丈夫なんだな!?」


 三人で階段を駆け下りながら、カンジに説明しようとしたところで、ちらっと後ろを振り向いたナナミが叫び声を上げた。


「ちょっと待って! 階段の上の方から何か落ちてくるわよ!」


 慌てて後ろを振り返ると、丸い岩塊がいくつもゴロゴロと転がり落ちてきていた。


「インディージョーンズか!」


 俺の口から、思わず魂の叫びが飛び出した。


「インディージョーンズってなんだよ!」


 せっかくカンジが拾ってくれたが、説明している余裕もなく、俺たちはスピードを上げて数段飛ばしで駆け下り続ける。

 だが、駆け下りるのと転がり落ちるのではスピードに歴然とした差があった。

 岩塊がすごい勢いで俺たちとの差を詰め、轟音とともに圧倒的な存在感を持って迫ってくる。


「ヤバい、追いつかれるぞ!」


 いよいよ岩塊が弾き飛ばす石のつぶてが背中に当たるのを感じるほどになってきたとき、ナナミが叫んだ。

 

「あっ! 横穴があるわよ!」「飛び込め!」「わっ! カンジさん押さないで!」


 俺たちは半ばカンジに突き飛ばされるようなかたちになりながら、必死で横穴に転がり込んだ。

 その直後、階段を凄まじい速さで岩塊が転がり落ちていった。


「ふう、なんとか助かったな……」


 俺とカンジが胸を撫で下ろしている間に、ナナミは立ち上がって横穴から顔を出して様子をうかがった。


「上にはもう異常はなさそう。下は……さっきの岩が階段の一番下を塞いでるように見えるわね……」


 俺も顔を出して見てみると、たしかに階段の先で岩塊が止まって、その先に進めなくなっているようだった。

 俺たちが飛び込んだ横穴は、奥行きがなく、通路ではなく一時待避所として設定されているようだ。

 まさに、俺たちのようにトラップにかかった場合の緊急避難のために用意されたものだろう。


 まるで難易度調整を施されたゲームのようだと思った俺は、ピンときて横穴の中の床や壁を探り始めた。


「おいヒデトシ、何やってるんだ?」


「こういう構造上の特異点には、あるんですよ、アレが……」


 四つん這いで床を手探りしながら答えた俺は、奥の壁と床との間、カンテラの光が届きにくくなっているところに、一抱えほどの物体がわだかまっているのを見つけ出した。


「ナナミさん、ここを魔法で照らしていただけますか」


 俺が指差した先をナナミが照らし出すと、そこには、硬そうな鈍い光沢を放つ矩型の物体が、目立たぬようにひっそりと鎮座していた。


「うお、宝箱か!」


「すごい。ヒデトシくん、よく気がついたわね……」


 前世でのゲーム歴がモノを言ったわけだが、こういう地形には魔素が溜まりやすいとかなんとか、それらしいことを言ってごまかした。

 暗がりにあっては、開けて中身を吟味するのもままならないので、とにかく明るいところに引っ張り出して調べることにした。


「カンジさん、いきますよ」


「おうよ……せーのっ!」


 ナナミが照らし、俺とカンジが宝箱の両端を掴んで、タイミングを合わせて一気に引きずり出した。

 かなりの重さだったが、なんとか横穴の中央部、もっとも明るくなっているところまで移動させることができた。

 こうして明るいところで見てみると、箱というよりは石棺のようにも見えた。すくなくとも、宝箱といったときによくイメージされるような木製の箱ではない。触った感じは、御影石のようなひんやりとした感触だった。


「カンジさん、宝箱を開けたことはありますか?」


「まさか。大規模クエストのときにボスモンスターのドロップ品で見つかった宝箱の開封に立ち会ったことはあるけどな。大迷宮クラスのダンジョンでも宝箱の生成は数年に一度って言われてるくらいのレアものだ。もし宝箱が生成されても、普通は運良くそれに出くわしたやつがすぐ手に入れちまうから、そうそうお目にかかれるものじゃないぜ」


「じゃあ中身も期待できるわね。どうやって開けるのかしら」


 ぱっと見た感じ、取っ手もなければ鍵穴もない。それどころか、どの面にも辺にも継ぎ目がなく、蓋という概念もなさそうに見える。


「宝箱には罠が仕掛けられている可能性があるからな。特殊な技能があるやつがいたら、そいつに任せるのがベストなんだが、そう都合よくいるもんじゃない」


「そんなときにはどうするんですか?」


「まず、他のやつは退避する。ほら、階段の方に行ってろ」


 俺とナナミは、カンジに追い出され、階段から横穴を覗き込む。


「そして、どうやって開けるかっていうと……」


 カンジはそう言いながら、鞘が付いたままの大剣を振り上げ、裂帛の気合とともに宝箱に向かって振り下ろした。


「実力で開けるんだよっ!!」


 重い金属の塊である大剣が、宝箱の上面部分に激突し、耳をつんざくような大音量の金属音が鳴り響いた。

 俺とナナミはとっさに耳を塞いだが、それでもぐわんぐわんと耳の中にしばらく反響が残った。

 三半規管も揺さぶられたのか、少しくらくらする。


「……先に言いなさいよ!」


「悪い悪い。しかし……剣のほうが曲がっちまった……」


 見ると、たしかにカンジの剣が鞘ごと途中から曲がってしまっている。

 一方で宝箱の方には、幾筋かヒビがはいっていたが、ダメージとしてはそれくらいのもので、見た目にほぼ変化はないようだった。


「これはなかなか厳しいわね」


「ナナミの魔法剣でもう一回やってみるか?」


 カンジが提案するが、それはすぐさまナナミに却下された。カンジの大剣ほどの質量がない上に、借り物を曲げてしまうわけにもいかないからだ。


「じゃあどうするんだよ。諦めるか?」


「いいえ、こうしてヒビが入っているということは、物理的に破壊が不可能というわけではないでしょう。剛性は高いようですが、ヒビのところで弱くなっているので、ここに力を加えて進展させましょう」


 俺は宝箱の前にしゃがみこみ、上面を指先でなぞってヒビの筋目が一番直線的になっているところを探した。


「ここだ。カンジさん、投げナイフを二本貸していただけますか」


「お、おう」


 カンジから受け取ったナイフのうち一本を左手に持ち、その刃をヒビに沿うように当てる。

 そのナイフが宝箱に垂直に突き立つように固定すると、俺はもう一本のナイフの柄を右手でしっかり握り込んで、ハンマーでタガネを叩くように、右手に持ったナイフのお尻の部分を、突き立てたナイフのお尻の部分に何度も打ち付けた。

 カンカンカンという音が響くたび、少しずつヒビが伸びていく。

 何度も何度も打ち付けて、ついにヒビが両辺にとどいたとき、パキッという想像以上に軽い音とともに、宝箱の上面がヒビに沿って真っ二つに割れた。


「すごい! 開いたわ!」


「さすがヒデトシ、なんだかよくわからねえが、やるなあ。中には何が入ってる?」


 俺は、二人の声を背中に聞きつつ、宝箱の中を覗き込んだ。


「これは……!」


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