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東大生の撤退

 ドラゴンが稜線のこちら側には手を出してこないのを確認すると、俺たちは荷物のところまで戻った。

 そこで一旦休息をとりつつ、話をすることにした。

 俺は地べたに座って水を飲み、攻撃を受けたカンジは横たわって半身を起こすような姿勢で、ナナミの魔法による治療を受け始めた。


「あれは私たちじゃどうにもなんないわね……」


 ナナミがカンジに治癒魔法をかけながら嘆息した。


「たしかに、こちらの攻撃は剣も魔法も全然通用しませんでしたしね……。1000人いたら違うんでしょうか」


「いやあ、どうだろうな。あれはもう生き物としての格が違う気がしたぜ。数でなんとかなるような生易しいもんじゃないんじゃないか」


 直接ドラゴンに攻撃を行い、ぶちのめされたカンジだけに、実感がこもっている。


「でも、拘束や閃光みたいな補助魔法はそれなりには効いてたわよね」


「そういえばそうですね。魔法無効化みたいな特殊な性質を持っているわけではないってことですね」


「補助魔法が効いたところで、現に有効な攻撃手段がなきゃあ倒せねえぞ」


「数に物を言わせた大火力を叩き込むことで有効打を与えられるかどうか。軍は魔法科を中心に編成するって言ってましたから、国としてはそういう方針なんでしょうけど」


 先日の説明会でのアダマンの方針説明を思い出す。

 ナナミの治療魔法が一段落し、カンジが起き上がってあぐらをかきなおした。


「しかし、説明してたナントカってヤツは、ドラゴンの翼に穴を開けるみたいなこと言ってたが、あの翼はただの皮膜じゃないぞ。明らかに何らかの力で守られてた」


 ナナミも水を飲みながら頷いた。


「たしかに。短剣が飛んでいって翼に当たったと思ったら、おかしな感じで短剣が落ちてったわよね」


 そうなのだ。他の攻撃は単に防御の堅さということで片付けられるにしても、あのときの不自然な動きは、他の力を想定せざるを得ない。物体の運動が変わるのは力が加えられたときであるというのは、ニュートン力学の大原則である。

 そして、もしそんな力があるのであれば、翼だけがその力で守られていると考えるのは、楽観的すぎるというものだろう。その気になれば全身同じような守りが可能であると想定したほうがよい。


「あの守りが任意発動なのか、自動発動かによって、難易度がかなり変わってきますね。もし自動発動なのだとしたら、かなりやっかいそうです」


「不意打ちとかでなんとかなるかどうかってことか。まあさすがにドラゴンったって生き物なんだから、自動なんて都合のいいこたぁないんじゃないか?」


「わかんないわよ。魔法的な力なんだとしたら、発動条件を満たせば自動で発動するなんてこともありうるわ」


「あとは、なぜ稜線のこちら側には手を出してこないのか、というのも謎ですね」


「普通に考えたら、あっち側が縄張りで、それを守ってるってことなんだろうけどな」


「でももしかしたら、なにかの要因でこちらには来られないのかもしれませんよ。もしそうなら、その要因がわかればドラゴンに対抗する有効な手段になるかも」


「魔素の濃度の問題とか?」


「ありえますね。根拠があるわけではないので断定はできませんが、そういう外部要因の可能性もあるってことは頭に入れておいた方がよさそうです」


「頭に入れとくのはお前に任せてるんでな。よろしく頼むわ」


 おおよそ論点が出揃ったところで、俺たちは再度稜線の向こう側をみやってから、帰路についた。

 ドラゴンの姿はおろか気配すら感じられず、そこにはただすがすがしい夏の山と青空が広がっていた。


  *


 ひいきめに見ても普通の冒険者パーティーの域を出ることのない俺たちは、現時点でドラゴンの単独討伐は不可能という結論を出した。

 なんらかの有利な状況を作り出し、その中で狙いに狙いすました一策をもって、ことを成さねばならない。

 そして、いま俺たちの前には、有利な状況を作りうる有望な要素があった。


「国の討伐隊。これを使います」


 投宿している宿の一室で、俺はナナミとカンジに向かってそう宣言した。


「というと、やっぱり依頼を受けて討伐隊に加わるってことか?」


 カンジが首をひねる。


「いえ。それだと『光の剣』が手に入らないので、討伐隊には加わりません」


「じゃあどうするの?」


「こっそりついていって、おいしいところを横からいただきます」


 俺がニヤリと笑うと、二人はあっけにとられたような顔をした。


「おいしいところをってお前……国に喧嘩売ってるようなモンだぞ……」


「それに……そんなにうまくいくかしら?」


「まあ、そこはうまくやりましょう。どっちにしろ、国の討伐隊でもあのドラゴン相手に一筋縄でいくとは思えませんし、まずはお手並み拝見です」


 二人は、まだ何か言いたげだったが、一応納得してくれたようだ。


「彼らの出発は来週です。それまでに必要なものを揃えたりして備えましょう」


「とりあえず、お前が一人であそこまでたどり着けるようにしてくれるのが一番ありがたいんだがな」


「そうね。いくら頭脳担当といっても、自分の荷物くらいは自分で運んでもらわなくっちゃ」


「うっ……それは一週間では……荷物を軽くしておきます……」


 痛いところを突かれた俺は、小さくなるしかなかった。

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